-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#panj【絵心と切磋琢磨:前編】
4ページ/4ページ




『ねぇねぇナルサス、何の絵描いてるの?』


「ん、これか?

 この城壁から見える夕日が美しいのでな。

 丁度それを描いているんだが…」


『わぁー見たい! 見ていい??』


「いいぞ」



自己紹介が終われば、次に気になるのが 何をしているか。

西の空と紙を交互に見ながら、さらさらと手を動かしている彼。

一応許可をとって、傍に移動した。



「………ん?」



考え事も浮かんできたダリューンは、ぼーっとし始めていて。


しかし、ふと我に帰った。

そして現状の 並んでいる2人を視界に入れる。



「……あっ…待て、ロゼ!」



慌てて止める彼。



『………』



もちろん間に合わない。


案の定、ぴったり固まっている少女。



「どうだ、ロゼ。

 美しい夕日を見事に絵で再現しているだろ?」


「そんな訳ないだろう!

 お前、自分の絵がどれだけ人に影響するか気付いておらぬのか!!」


「気付いておるとも。

 実際ロゼは、素晴らしい俺の絵に感動して言葉も出ないようだ!」


「感動じゃない絶望だ!」



その後ろで また言い合いをはじめた少年達。


ナルサスは純粋に絵が好きなのだが、どうしても画力は皆無。

この頃から既にそうだったので、ローゼンタールが言葉を無くした原因に値する。


が、それだけではなかった。



「…!」


「…え」



言葉を発するより前に、涙が溢れ 頬から零れ落ちる。


見つめたまま、止まることなく。



「お…おい、ロゼ…?」



1番近くの犯人…いや ナルサスは、おそるおそる 彼女の肩に手を置いた。



『うっ…うぅぅぅ〜〜!』



だが 時すでに遅し。

嗚咽が混ざり始め、ただ泣き続けるロゼ。



「…ナルサス、お前…」


「い…いや待て、感極まって涙を流しておるのかもしれんだろ??


 俺をそんな目で見るな、ダリューン…」


「ハァ……もういい」



ナルサスの反対側に移動し、同じく肩に手を置いて 背中もさすってあげるダリューン。

じとー…っと彼を睨みつけることも忘れずに。


別に言い訳ではなく、描いた男は 才能云々を自覚していない(しない?)のだ。



───…



「…ロゼ、少しは落ち着いたか?」


『ぐすっ……うん、もう大丈夫。

 ありがとう、ダリューン』


「気にするな」



それから少し経ち、暗くなってきたので 一旦城壁を後にした3人。

歩きながらもぐすぐすしていたので、ダリューンは頭を撫でながら歩く。


一方ナルサスは、どんな理由であれど 自分の絵に対して泣かれてしまったことに

複雑な心境から、むすっ…と黙っていた。


ちょうど階段を下りて 少し進んだぐらいに、ローゼンタールの涙は止まる。

目元はまだ腫れているが、笑顔を見せた彼女に リューは優しい表情を。



『ナルサス…ごめんね。

 あたし、急に泣いたりしちゃって…』



1人離れて歩く 道具を持っている彼に近寄り、ロゼは謝罪する。



「…何故お主が謝るのだ。


 ……悪いのは…俺の…───

『違うよ!

 貴方が悪いわけでも、絵が悪いわけでもない!

 突然泣いちゃったあたしが悪いの!』


「…!」



らしくない自虐が始まりそうな所で、少女は大きく遮る。

突然だったのもあり、ナルサスと 近くのダリューンも驚いた。



『ただ、その…自分でもなんで泣いちゃったのか、分かんないんだけどね…あはは』



頭を掻きながら 苦笑いのロゼ。


理由が謎なのは何故か分からないが、悪気は無いというのは 充分彼に伝わった。



「…自らが悪い、と 今までそんな弁解を述べた者など 居なかったぞ」


『だって、何でもかんでも人の所為ってわけじゃないんだし。

 それにさ、絵を描いてる時のナルサス すっごい輝いて見えた!

 そんな人が描く絵が、悪いわけないじゃない!』



第一印象から感じていたこと。

夕日のお蔭もあり、煌めいているような印象だった。


はっきり述べた彼女にまた驚きながらも、金の少年は自然と笑みが零れる。



「……本当に、お前は変わった奴だな」


「それをお前が言うか…?」


「ダリューンは黙っていろ」



ぴしゃりと 黒い男からの嫌味は区切っておく。

変わっているかどうかはさておき、暗い空気は消え失せた。



『とにかくとにかく!

 これからも話とか…してくれる?』


「当たり前だろう、俺とお前は 既に友なのだからな」


『わーいやった〜〜!!


 改めてよろしくね、ナルサス!』


「あぁ、よろしく頼む」


「(ナルサスには愛称付けんのだな…)」



また1人、友人が出来たローゼンタール。


絶望から始まった新たな歩みは、少しずつ 少しずつ 幸せの色で染まっているのだ。



日常の幕は、まだ下りない。



*
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ