-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#seh【偽りの死】
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現在の時刻は、早朝4時頃。

朝日が昇るまで、後数時間といったところだ。


誰も居ない都を歩き 歩き 着いたのは、1軒の家屋。



『…ここが…そうなのですか…?』


「えぇ、そうです。暫しお待ちを…」



手が離れ、彼は扉に近付き ノックした。

「夜分遅くにすまん。ヴァフリーズだ」の後 間を空けて 木製の戸が少し軋み、開く。



「おぉ、ヴァフリーズ殿。


 こんな時間に、どうされましたか?」



出てきたのは ヴァリや叔父より若く、穏やかな雰囲気の男。

言葉と共に握手を交わし「中へどうぞ」と促した。



「…誰かと思えば、ヴァフリーズ様!

 お久しゅうございます」


「ルミジエ、元気そうでなによりだ」



室内には 女性が1人おり、ヴァフリーズは彼女を「ルミジエ」と呼ぶ。



「…あら?

 ヴァフリーズ様、この子は?」


『…っ!』



兄とヴァリぐらいにしか慣れていない少女は、

自分を見つけ、膝を折って目線を合わせてくれた女性に戸惑う。



「フフッ 大丈夫よ、落ち着いて…」


『………』



ニッコリと笑い 頭を撫でてくれたルミジエに、ラミアローゼは少し警戒心を解いた。



「…実は、彼女の……“この御方”について、話がある」


「「…!」」



“この御方”という敬称に、夫婦は突如 真剣な顔に。


4人で机に座り、話は始まった。



「───…やけに王宮が騒がしいと思ったら……そういう事だったのですね…」



最初に会った男 名を ジーグは、苦々しい表情。


それもそうだ。


王子の暗殺。

巻きこまれたが故に、死んだことにされた王女。

そして、現王の病死。


病死については 後に全民へ知らせられるだろうが、

王子と王女の“真実”は、ヴァリ以外では 彼らだけ。


それだけに重く、楽観視できるものではないのだ。



「王女様は産まれてこの方、王宮から出たことはなかった。


 なのでお前達も、初対面になるが…」


「…えぇ。

 そうとは知らず、無礼な事を…」


『あ、いえ!

 私こそ、人と接するのに慣れていなくて……もうしわけないです』



ペコリと椅子に座ったままで、頭を下げるラミアローゼ。


幼い頃から 兄とばっかり接していたものの、

【悪いことをしたら 謝る】という教えはされていたので。

「王女様…」とルミジエは少し驚くが、次にはしっかりした表情になった。



「…王女様、そのお気持ちを 大事にしてください。

 そして……今から貴女は、私達の娘です。

 お互い、畏まる必要はありません」


『…!』



ここに住む=彼らの娘になる、というのに 気付けなかったわけではない。

ただ、面と向かって言われると、驚いてしまった。


ルミジエは静かに立ち上がり、座る彼女の隣に。



「…これから私達と、色んな経験をしていきましょう?

 王女という立場は関係無い、ひとりの女の子として。


 私達と共に…ね?」



さっきと同じ、優しい笑顔で 彼女は手を差し伸べた。


氷の様に冷たくなってしまった自身の心に、日が差し込み始めたようで。

『この人と、この人達と、生きてみたい』と、純粋に浮かんだ気持ち。


気付けば、自然と手を伸ばし…



『…はい…!』



ギュッと握って、返事をした。



───こうして“王女”の悲劇は、幕を閉じた。


次の幕開けは、未来の黒戦士との出逢い。



*
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