-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#do【恨みのはじめ】
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【ヒルメスside.】



俺の妹は、年齢の割に聡明で…自慢の妹だった



『これ、御祝いに作ったんです。

 出来はよくありませんが、受け取ってくれませんか…?』



かと思えば、花冠が上手く出来なかったりする ちゃんと子供っぽい所もあって



『…っ…ふぇっ…兄様ぁ…』



ヴァフリーズにこっぴどく叱られ、俺の腰に抱きついて泣きじゃくったりとか


そんな妹 ラミアローゼが大好きだった

大好きだからこそ、こいつは俺が絶対に護ると 死んだ母に誓ったんだ


…なのに



「うあぁぁぁぁ!!!

 くっっ…! うぅぅ、あついっ…顔が熱いっっ…!!!」



火事にいち早く気付いたのはラミアローゼで、本の炎が燃え移った時…



『うううっ…!!

 っ…にい、さまぁっ!!』



一生懸命手を動かし、火を消して救ったのもこいつで



「ラミアローゼ、大丈夫かっ!? ラミアローゼ!!」


『っ! ……大丈夫ですっ、ヒース兄様…!

 私の事は気にせず、早く逃げましょうっ…!!』



あの時 戸惑っていたのは俺で、諦めなかったのは妹だった。


どうして俺とは違って 心が強いのかは分からなかったが、そんな時 己の耳に聴こえた悲報

パルス国 国王 オスロエス5世

俺達の父親が死んだ、というもの


そこで俺は思い出した

最後に父様とお会いした時、叔父上…アンドラゴラスの顔を

恨みと妬みが混ざりあった、負の表情だったのを


殺したのは、殺そうとしたのはアイツだ…!

顔の火傷が酷く疼くのが、その証拠だと。


これを妹に伝えなければならない……たとえ、辛い事でも

それに、聞きたいこともある


だから「お前は何か知っているのか…?」

そう ラミアローゼに問い詰めた

頭の良いこいつのことだから、もしかしたら 父の死に感づいているかもしれない…


…だが、予想は外れた



『お父様…が…っ…?』



こいつは 俺と違う事に気付いて、俺の知っていることは知らなかった


お父様の話を聞いて、ボロボロと涙を零していて

こういう姿を見れば、年相応の妹なんだと 改めて実感する。


アンドラゴラスへの復讐は、いつか絶対にはらす

その前に、ラミアローゼと安全な場所に逃げなければ…!



《! 誰だ!!》



…だが、俺の失態で こちらが話を聞いていた兵士達にバレてしまった


このままあいつらに捕まれば、俺は殺される…

生憎武器は 宮に置いてきてしまった


何か 武器になるもの……そうだ、この木箱を壊して───


…え?

何故だ…? 何故…


何故 俺より前に出ているんだ……ラミアローゼ…!?



「ラミアローゼ!? 俺よりも前に───」



…本当に、こいつの心の強さはどこから溢れてくるんだ



「…っ…ラミアローゼ…?」



自分の命はかかっていないから、などという理由にはみえない


俺は何も答えられなくなった

妹の 次の発言を聞くまでは



『…兄様、大変申し訳ないのですが…


 ここからは、おひとりで逃げてください』



何を…何を言ってるんだ、ラミアローゼ…!?

何故俺より前に出て

何故俺の手を振り払って



『さようなら、ヒース兄様……


 大好きな、たったひとりの ヒルメス兄様』



何故…背中を向けたまま、俺に別れを言うんだ。


俺は、お前を護る事は出来ないのか…!?


何故こんな事になったんだ…


何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故…!!


…そうか、これは……アンドラゴラス…お前の所為だ

お前が父を殺し、ラミアローゼを奪ったんだ…


…許さぬ

許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ…!!!


貴様は必ず殺してやる…!


…今の俺には無理だが、王都を出て 力をつけて……必ず復讐してやる…!!!


待っていてくれ、ラミアローゼ

いつか絶対に迎えにくる…!



* * *



国から存在を消された王子は、妹の機転により 命まで消されることはなかった。

代価として 顔の醜さをわずらい、亡き母との約束を破錠する羽目になったが。


それでも 彼ら兄妹の心に、命を諦めるという選択肢は無い。

お互いに護り 護られた人生を生きていくために。


2人は 違う道を歩んでいくことを、決死の行動と 恨みによって決めたのだった。



───こうして、兄妹の別れは幕を閉じた。


次の幕開けは、名と存在を 殺された【葬った】王女。



*
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