-血統がない王太子と 血統の消えた王子と 血統を捨てた王女-

□#yek【さよなら 忌まわしきもの】
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[バチッ…]


『……うー…ん…?』



2人が寝入って 3時間程経った頃。


熟睡していた筈のラミアローゼは、耳に不可解な音を聴いた。

ここでよく眠る彼女にとって、初めて聞く音で。



『…んー……何の音…でしょう…?』



ごしごし擦り 興味本位に、薄ら瞼を上げた。


次の瞬間…



『…!?』



目の前の光景に、眠気など吹き飛ばして見開いた。


色で表すなら、たった一色だけの赤。

とめどなく 汗を放出させる熱。

何もかもを灰にする現象。


自分達のいる寝室が、炎に占拠されていたのだ。



『え…な、何故…こんな…!?』



当然状況が理解できず、自問自答する。


驚愕と恐怖が脳を支配するが、大事なことになんとか気付き 視線を隣に向けた。



『兄様!! 兄様!!

 起きてください、ヒース兄様!!!』


「う、んー……ラミアローゼ…?

 どうし───」



力の限り兄を揺さぶり、名を呼ぶ。


少しして目元を擦り、瞳を開けたヒルメスは 自ら言葉を止めた。



「……な…なんだ、これは…!?

 どうなってるんだ…!?」



先程のラミアローゼと同じ反応で、瞳孔を目一杯開く彼。


一足早く気付き 少しできていた冷静心を使い、妹は 兄の肩を掴み、涙目になりながらも叫ぶ。



『兄様、落ち着いて下さい…!

 とにかく、ここから逃げましょう!!』


「…! あ、あぁ…!」



2人の心中は 残酷な現実でぐしゃぐしゃしているだろう。


どうしてこうなったのか。

誰がやったんだ。

他の人や家族は無事か。


死にたくない…!!!


それでも【足を止めてはいけない】と、本能が強制する。

だから走った。

助かる道へと。



「くっ…扉までの火が強いっ…!!

 これじゃあ出れないぞ!!」


『そんなっ…!


 …あ! 兄様、東側の一番端にある窓…!

 あの窓っ 古くなっていましたから、きっと…!!』


「そ、そうかっ…!!

 こっちだ、ラミアローゼ!!」


『はい…!』



彼女の機転により、方向を変えて 妹の手を引いたヒルメス。

離れでありながらも ひとりにとっては広すぎる宮で、走り抜ける。


後少しで 窓に辿り着く所だった。



「『!!』」



彼等から見て左の方。

書籍が並ぶ本棚が、こちらに倒れてきたのだ。



「!? 本が…!!」


『きゃあっ!!』



共に、中の本は燃えながら 雨のように落ちてくる。


棚は幸いにも当たらなかったが、他のものを避けられはしなかった。



「うあぁぁぁぁ!!!

 くっっ…! うぅぅ、熱いっ…顔が熱いっっ…!!!」


『あっ!? 兄様!!!』



運悪く ヒルメスの右眼近くに当たり、火が燃え移る。


瞬く間に広がり、痛みと熱が 少年を襲った。



『兄様っ 兄様っ!!!

 うあっ…熱っっ…うう…!!』


「かっ…っ…よ、せ…ラミアローゼ…!!

 お前の、手も…燃えてしまうっ…!!」



無我夢中で兄の顔に手を伸ばし、炎を払おうとする。

その際 彼女の左手にも燃え移り、悲鳴を上げた。



『うううっ…!!

 っ…にい、さまぁっ!!』



妹の危機に ヒルメスは止めさせようとするが、ラミアローゼは手を動かし続け、なんとか鎮火した。



「ハッ…ハッ……ラミアローゼ、大丈夫かっ!? ラミアローゼ!!」


『うっ……大丈夫ですっ、ヒース兄様…!

 私の事は気にせず、早く逃げましょうっ…!!』


「っ…よし、行くぞ…!!」



火傷した左手の甲を押さえながらも、希望を捨てていない瞳で見上げる。

一瞬だけ驚いた兄だが、こちらも真剣さを取り戻し 妹を立たせた。


右手で焼け爛れた顔を覆い、左手で妹の手を再び引いて。

兄妹はまっすぐに、窓【希望】へと進む。


その後 ガラスが割れる音を聴いた者がいたが、火事によるものだと 誰もが思った。


殺すべき対象人物が、逃げ延びたのだと知らずに。



───こうして、兄妹達に降りかかる 最初の悲劇は幕を閉じた。


次の幕開けは、兄の為に選んだ決断。



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