-乱世を漂う朱の焔-

□壱ノ巻【京都 旅人と風来坊】
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桜散る、京の都。


活気に溢れたこの場所で、一際目立つ赤と橙の髪が揺れていた。



『ふぁ〜あ……眠た』



長い髪を左上で纏め、蒼と赤の菱形飾りがぶら下がる簪も共に。

上から布を羽織っており、詳細は見えにくいが 紅系の着物と袴 もこもこの毛(?)を着ている。

ぱっと見ると 男【おのこ】な服装と顔だが、本人の気持ちはどうあれ れっきとした 女子【おなご】


名は 武田 火未。

甲斐の虎 武田信玄の娘であり、甲斐の双子姫【かいのそうしき】の片割れ。

通称 火山の君【ひざんのきみ】


最近になって名も判明した 風林の君【ふりんのきみ】武田林音の、双子の妹。


という事実は、誰しもが知り得ている訳ではない。

そんなものを振りかざしても“旅”をする彼女にとっては邪魔だからだ。


なので、普段は『ひみ』とだけ名乗っている。

通称も 赤橙の旅人【せきとうのたびびと】というらしい。



《おはよう、ひみちゃん!

 今日も眠そうやね〜!》


『おはようさ〜ん。

 うち早起き苦手やねんもん…やけど、掃除するからって 宿追い出されてしもたんや』


《あらまぁ、そりゃ災難やったね〜

 眠気覚ましにお茶でも飲んでくかい?》


『ほんま? んじゃあお言葉に甘えて頂くわ〜

 おおきに、おばちゃん』



大きなあくびをしていたのが見られていたのだろう。

温かいお茶をご馳走してくれるという事で、遠慮なく店先に座る。


因みにここは茶屋です。



『…はーー…旨いわー…』



少し行儀が悪いが、音をたててお茶を啜る。


ふと、目を細める火未。



『…なんか、こうやって美味しいお茶飲んでたら 思い出すなー…』


‘なにをだい?’


『なにをって、そりゃあ…───』



懐かしそうな表情をしていた彼女だが、言葉を止めた途端 隣に振り向く。

瞬間、とてつもなく嫌そ〜うな顔に。


いつの間にか埋まっている 空席だった長いすには…



「よっ! 元気かい? 火未ちゃん!」


[ウキッ!]



茶髪の長い髪に、羽根飾りを付けたおちゃらけな感じの青年。

【前田の風来坊】前田 慶次。

相棒の小猿 夢吉は肩に。


凄くニコニコしながら、火未との(顔の)距離 約3cm。



『………』



だが、驚きもせず 表情も変えない彼女。


と、思っていたら…



「い゙っ!?」


[キッ!?]



鈍い音が聞こえた矢先、椅子から転げ落ちてしまった慶次。

よく見ると、顎が赤くなっている。


なんと火未は、なんの遠慮もなく 膝で顎打ちしたのだ。

もちろん夢吉は怪我をさせないように、避難させていたが。



「いって〜……いきなりは酷くねぇか? 火未ちゃ〜ん」


『…それ、そっくりそのままあんたに返すわ。

 突然現れたんはそっちやんか、慶次』


「だってさ〜、火未ちゃん見つけたら 話し掛けない訳にはいかねぇだろ〜?」


『そんなん思てんのあんただけやろ、頭湧かせてんやないわ』



地面で体勢を立て直している彼を、脚の組んだ膝あたりで頬杖をつき 見下す 赤い少女。

溜息もついているので、呆れているらしい。



《おや、慶ちゃんやないか〜! 相変わらず仲えぇな、あんたら》


『…おばちゃん、悪い冗談はやめてくれや。

 この桜バカがうちに付きまとってるだけやし、ありえへんありえへん』


「桜バカってなんだよ〜!」


『頭ん中桜色の馬鹿。略して桜バカ。

 あんたにピッタリやん』


「いや、なんかうまいけどさ!?」



店先にもかかわらず、温度差のある言い争いをしている2人。


おばあさんも迷惑しているのかと思ったら…



《(…やっぱり仲えぇんやね、あの2人)》



ニコニコしながら 見守っていたという。



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