-霧世に舞い降りし闇水の乙女-

□#Sechs【新たな人生:前編】
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「Ms.メリオローデ、しっかり!!」



逞しい腕で、瞳を閉じる女性を支えながら揺らす。

ついさっき 自分に笑顔を向けていた筈の彼女を。


口端に伝う血が、ぽたぽたと黒服に滲んでいく。



「…な…何だこれ…!?」


「少年、どうした!」



クラウスを囲うように ライブラのメンバーが様子を見ている中、ひとり 目を見開く者が。


【神々の義眼】保持者の レオナルド・ウォッチ。



「アルトさんの身体、ガラスみたいにボロボロになってて…!

 さっきまでそんな傷無かったのに…!!


 …あれは見間違いじゃなかったのか…!」



アルシュネムトの髪と酷似する色の瞳から 魔方陣の様な円紋が浮かぶ。

高性能カメラのズームするが如く、彼女の“中”まで視界に捉えられた。



「ガラス…!? 確かに顔がヒビ割れてるが…まさか体内までか!?」



確かに波紋を抑えはしたのだ。


しかし、以前使ってから 少なくとも15年は経っている。

DIOとの決戦以来だろう。


何度も使っているのなら 経験がモノをいうだろうが、ひと昔から数えても 2桁すらいかない。

無意識に避けていたのもあり、調節を誤ったのである。


太陽の光を浴びた「“星世界”の吸血鬼」及び「闇の一族」は、身体がたちまち崩れていく。


それはまるで、灰と化すように。



「は、はい…! 即死してないのが不思議なくらい…でもこのままじゃ危険だと思います!」


「あぁ、すぐに病院へ───

‘待て’


「「「!?」」」



出来るだけ振動を与えないよう、丁寧に立ち上がる。

意識の無いアルトを、横抱きにして。


医療機関へ急ぐために、歩みを進めた時だった。



〈貴様等、アルシュネムトを生かしたければ…俺の言う通りにしろ〉



声質の違う 独特の声が聴こえる。


運ぶ際に一旦外した刀の内、白い方からモヤが吹き出し クラウスの目の前で形となった。

尖った耳に黒い肌、鋭い瞳と鋭利な牙。

首から上は犬で、その下は人間。


エジプトの壁画に描かれている、アヌビス神そのものである。



「お前確か…アヌビスとかいう俺を操った奴か!?」


〈あの時は“世話になった”な、ザップとやら。


 それより、返事を聞こうか ライブラのリーダーよ〉



まるで通せんぼしているが如く、腕を組んで リーダーの行く手を塞いでいる。

騒ぐ銀男を一瞥して 嘲笑を浮かべるこの存在は、幽波紋【スタンド】

守護霊のようなものだが 元々彼女自身の 幽波紋【スタンド】ではないため、アルトが気絶していても活動できる様で。


それにしても 物理攻撃されても当たらないからか、態度がデカい。

反省したのか 他人が触れても、操りはしないようだが。



「待ってください! あんたこの前、彼女を殺そうとしたじゃないですか!!」



続きを止めたのは この中で1番アルトと交流しているレオ。

行く手に割って入り、糸目ながらも真剣な顔。



「バカな猿が操られてね」


「一言多いぞ犬女ァ!!」



姿が視えていないものの、会話から察したチェインも毒を吐く。

アヌビスに、ではなくザップに。



「それにしては、気前が良いもんだな。

 …何か狙いがあるんじゃないか?」



この中で非協力的だったスティーブンも乗っかる。

多分事情聴取したいからとかいう理由で。



〈フンッ、これだから人間は疑い深い…〉


「ちょっと、喧嘩売ってんのアンタ!?」



鼻で笑い あからさまな溜息を吐く犬男に、銃を取り出して掴み掛る勢いのK・K。


本当はお出かけ中だった所に、番頭からの緊急招集でご機嫌斜め。

家族(主に子供達)に謝りまくってさっき到着したので、少し苛立っているのもある。


このままでは一触即発、と思われた時。



「皆【みな】落ち着いてくれ」


「「「!」」」



冷静かつ 全員に聞こえるくらいの声量で、クラウスは口を開いた。

ピタリと止まり、ボスを見る。


先程より 頬の亀裂が進んだアルトを見つめてから、彼は視線を前に。



「…貴方の言葉に確証は?」



ふわりと風が舞い 女の髪を揺らす中、アヌビスを見据える。


愚霊【ぐれい】の言葉が信じるに値するか、判断する為だ。



〈…仮にもその女は主だからな。悪いようにする理由は無い〉



彼も視線を逸らす事はせず、答える。

嘘を吐く意味は無いと。



「…分かりました、お願いします」



ペコリと頭だけをさげたクラウス。

抱き上げている彼女に 負担をかけないため。

見守るメンバーは ホッと息を吐いたり、やれやれと諦めたり。


それからすぐに病院へ運ばれたアルシュネムトへの指示は、簡単に出来て 疑い深いものだった。



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