-霧世に舞い降りし闇水の乙女-

□#Vier【生きていく術:後編】
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「どうぞ」


『ありがとう、執事さん』



ひと騒動から数分程経ち、場の雰囲気も 落ち着きを取り戻す。


クラウスからの提案自体は了承したが、手当ては断り 彼女は捨ててもいいタオルだけ欲しいと頼んだ。

丁度ソファに座り終えたくらいに、ギルベルトが何枚か持って来てくれる。



「…本当にタオルだけで良いのですか?」


『えぇ、血さえ止めておけば塞がるもの』



彼から1枚受け取り、傷口に当てた。


リーダーに答えた通りとでもいうように、流れ出る赤は既に少量で。



『それに…“血液を取る”なら、この方法でも問題ないんでしょう?』


「「「…!?」」」



さらりと、何気なく零した問いかけ。

誰も、何も、目的など語っていないのに。



『ねぇ? えーっと…スカーフェイス、だったかしら?』


「スティーブン・A・スターフェイズだ、化物のお嬢さん【モンストレス】」


『その呼び方はやめてくれる? 私、お嬢さんなんて歳じゃあないもの』


「おっと失礼。では、Ms.アルトとお呼びしよう」


『どうぞ』



考えはお見通しだったのだろう、副官様に迷いなく振り返り 満面の笑み。

対するスティーブンも バレたにしては余裕の表情。



『それはさておき、大方私が 血界の眷属【ブラッドブリード】とやらなのかどうか 調べるためでしょ?


 別にやるなとは言ってないわ。

 むしろ、ちゃんと調べてくれた方が 証明になると思うのよね。

 殺す意味も無くなるだろうし』


「確かに、ごもっともだな。では、存分に調べさせてもらおう」


『フフッ、お願いね』



遂に彼すらも笑みを浮かべて、良好そうに見える会話。

何も知らない人から見れば、の話だが。



「「「(2人共笑顔なのに空気が重い…)」」」



周りのメンバーには感じられた。

お互いがお互いに対して、負のオーラを放っていることに。



『それにしても、うちの 愚霊【ぐれい】が迷惑をかけたわね。

 ごめんなさい』



しかし いつまでもいがみ合っていたって意味が無いと判断したのだろう。

いつもの笑みに戻り、黒いものも消えた。


タオルを手に席を外した参謀に代わり、クラウスへ頭を下げる。



「…愚霊【ぐれい】ですか…?」


『えぇ、愚図な守護霊だから 愚霊【ぐれい】


 ザップ…だったかしら? 彼に取り憑いていたのはそいつなのよ』


〈おいアルト! 黙っていれば好き放題言ってくれるな!!〉


「「「!?」」」



突然 女とは別の声が叫ぶ。

この部屋にいる誰のものでもなく、ノイズが入った様な声色で。



『あら、何も間違った事言ってないじゃなあい?

 貴方と話してるとおかしな人に思われるから黙ってて』


〈ぐっ…!〉



次第に アルトの隣へ表れる、透けた何か。

先程刀身から形となったアヌビス、そのものだった。

ごもっともな意見を突かれ、歯を食いしばりながら。


次第にめそめそとテンションが下がっていき、薄れていった。



「あの…いいかしら?」


『はい、なぁに?』



ここでK・Kが、少し控えめに声を掛ける。



「アヌビスと…ラルダ、だったかしら。


 私達にも視えてるのよ…一部の人間だけだけど」


『…え?』



予想外の答えに 目を見開いて驚く彼女。

さっきから驚きっぱなしである。


それはともかくとして、今この部屋にいるメンバーでいうと クラウス レオ K・Kが見えていたらしく、

視線がさっきまで居た 幽波紋【スタンド】の方へ向いていて。



『あらー…これは驚いたわね…レオくんの瞳が“視えやすい”のは知ってるけど。


 他の人は 何か共通点があるのかしら?』


「今居ないスティーブンと 気絶しているザップを含めた私達は、それぞれに血を操る術を持っています。

 理由は分かりませんが、おそらくそれかと…」


『ふーん、成程…』



それぞれの技は、既にある程度確認済み。


血操の力と 幽波紋【スタンド】能力は、解明できない酷似があるのだろう。


追求しているとキリがないので、納得はした。



「ちょっとクラっち、そこまで喋っていいの?

 敵じゃないのはほぼ確定だろうけど、メンバーでもないわよ」


「我々は彼女に 多大なご迷惑をおかけした。

 このくらいの事でしか、お詫びできませんが…」


『そんなに気にしないでちょうだい、お互い様なんだから。

 大体 他に喋る知人なんて、この世界には居ないんだし』



まだ少し 疑いの眼差しで、K・Kはアルシュネムトを見る。

され慣れている彼女は動じず、申し訳なさそうにするクラウスに笑顔。


しかし徐々にだが、誤解は晴れかけていて。

現状に、小さくほっと 息を吐いたレオ。



『…でも、そうね……お詫びついでに、1つ頼まれてくれるかしら?』



顎に指を当てながら にっこりと微笑む。


既に印象が いつでも笑顔のアルトなのだが、何か企んでいる様に 一部メンバーには見えてしまった。



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