-緋に映える碧き嵐-

□〜風波静林〜 壱ノ巻【蒼紅 宿命の邂逅!】
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戦【いくさ】の 国【くに】と書いて 戦国【せんごく】


言葉通り 戦いは常にあり“死”もまた常である。



* * *



ある日 ある時 ある場所で。

戦いの火蓋は、既に切られている。


片や城を攻め落とそうと、片や応戦するが 復帰の目処が立たない。

再起の間もなく“紅き”軍が驚異のスピードで向かってくるからだ。


しかも“ひとり”で。


堅く閉ざされているはずの城門。

それが今、振動とともに破られようとしている。

城を守る 兵【もののふ】は、何者か分からぬ相手に動揺しながらも 槍を構え直す。


3回目の衝撃が響きわたると、誰もが思った。



《《《うわあぁぁぁ!!!》》》



響いたのは衝撃ではなく、爆発だったのだ。

当然 近くの者達は吹き飛ばされていく。

爆風と同時に煙が辺りを包み、何も見えない。


破壊された門を通り、一頭の馬が駆け抜ける。

煙をも抜け、姿がやっと確認できた。


乗っているのは、先程言った“ひとり”

服も 武器も 生身以外全てが“紅い”青年だった。



「駆様な城門に、我が槍は阻めぬ!

 天・覇・絶槍! 真田幸村、見参!!」



炎を纏った2本の槍を携え、駆ける馬から勢いよく跳ぶ。

着地後に武器を回し、未だ驚く兵達へと構えた。


額には 紅の長鉢巻。

首に掛けられているのは「三途川の渡し賃」と伝えられる【六文銭】

背中には 彼の家紋である、先程いった【六文銭】


二つ名を【若き虎】真田 源次郎 幸村。

攻め落とす側の紅き軍 武田軍の若き武将である。



「勇猛なる者は、御相手 仕【つかまつ】る!!」



ただ単に一網打尽とするわけでなく、進言した上での攻城。

…まぁ、見て分かるように 熱血漢であるからだ。



《うおぁぁぁ!!》


《やあぁぁぁっ!!》



触発されて、であろう。

それぞれ唖然としていた兵は、我に返り 青年を包囲。

この場合、やけくそにもなる。


囲まれた側の真田氏はというと、全く動じず 迎え撃つ体勢。

一旦瞳を閉じ 見開いたかと思えば、片方の槍を目前に翳しクルクルと回す。

彼の属性 炎を纏って。



《《《うわぁぁぁぁ!!!》》》



またもや爆音と共に、今度は周りの者が吹っ飛んだ。

原因は言わずもがな幸村だが、彼は今 主君への誓いを口にしている。



「見ていてくだされ お館様!!

 必ずや、都に御旗を立てましょうぞ!!!」



光線のように飛びながら。



* * *



真田幸村が口にした「お館様」

彼の主君であり、甲斐を収める主でもあるその名は 武田 信玄。

【甲斐の虎】とも呼ばれるその御方は、家臣の働きを 遠目ながらも、しっかりと見届けていた。


彼の後方には、待機させている自軍の兵達。

そして、彼の横には 青空よりも濃い蒼の傘。


正確にいうと、その傘を差す人物がひとり。

影となって顔は見えないが、着物や容姿から 女性だというのがわかる。



「…して林音よ。城の状況はどうなっておる」



首も 視線も動かさず、山上の城を見つめながら 隣の者へ問う信玄。



『わたくしがわざわざ答えずとも、分かりきっている事でしょう?』



「林音」と呼ばれたその女も、同じく見つめたまま 答えを出した。


口元にうっすらと、笑みを浮かべながら。



『風の流れは、変わらず幸村様の元に…』



彼女は腕を前へ伸ばし、掌を天へ向け 言葉を紡いだ。

少しばかり傘を上げ、視線も 空を見上げる。


隠れていた瞳は 銀色に澄んでおり、風で 靡【なび】く腰までの髪は、傘と同じぐらいの蒼で。

光が当たる一部は、何故か 翠にみえた。


少しして 笑みはそのままに 腕を下げ、総大将へやっと顔を向ける。



『出る幕も有りませんでしたね。“お父様”』



二の腕の留め具と、刀の鍔が【四割菱】

つまり「武田家家紋」をあしらった この女性。


名を 武田 林音。

風林の君【ふりんのきみ】という異名を持つ、横にいる信玄公の愛娘である。



*
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