-闇の血の戦乙女-

□3.【闇と星】
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次の日。



『…ん……んん…?』



鳥の囀りが耳に入り、目を覚ますアルト。


泊まらせてもらった部屋といえど、眠る間に日光に当たると危ないので、カーテンは全て閉めている。



『ふ…う〜〜〜ん! よく寝たわ…』



寝起きの習慣らしく、洞窟でもやったように腕を伸ばす。


そんな時…



「アルト、起きてる?」


『起きてるわよ、エリナ』



ノックの後に入ってきたのは、昨日友達になったばかりの少女 エリナ・ペンドルトン。



「朝食出来たから、って 母さんが」


『あら、わざわざありがとう。朝食まで頂けるなんて、助かるわ』


「そんな…わたしこそ、無理を言って泊まってもらったし……」


『フフッ…じゃあ、お互い様ね』


「そうね…!」



お互いに微笑みあう2人。

出会って間もないといえど、絆は確かに存在している。



「ところでアルト、どうしてカーテンを閉めてるの?」



ふと、かけられた疑問。

少女にとっては なんとなく聞いたのだろうが。


真実を簡単に答えられないアルシュネムトは、一瞬だけ 眉を寄せた。



『…あぁ、勝手に使ってごめんなさい。

 生まれつき、日光が苦手なの……肌が弱くてね』


「そうだったの……あ、だから昨日 外でフードを被っていたのね。

 気にしないで、母さん達にはわたしから言っておくわ。

 着替えたら来てね」


『…えぇ』



パタン…と扉が閉まり、再び独りになる。



『…半分本当で、半分ウソ…なんだけどね……』



誰にいうわけでもなく零し、息を吐く。

『ごめんね…』ともう一度囁き、着替えを始めたのだった。



───…



『おはようございます、皆さん』



食事をする部屋、今でいうリビングへと足を踏み入れた彼女。



「あぁ、おはよう アルトさん。

 昨日はゆっくり眠れたかい?」


『えぇ、お陰様で。何から何まで、感謝致します』


「気にしないでちょうだい!

 エリナが無理を言ったのだし、あの子の為に泊まってくれて こちらこそよ」


『そうですか……有り難うございます』



ペコリと頭を下げた後、促された エリナの隣の席へ座る。

机には 温かいスープや ふかふかのパン、サラダに スクランブルエッグ等々…

美味しそうなものばかりが並んでいた。



『(…そういえば、ちゃんとした食事 久しぶりね……)』


「遠慮せず、いっぱい食べてね! おかわりもあるから!」


『はい、ありがたく頂きます』



ほかほかの食事に手を付けながら、少女と【美味しい】と笑いあう。

既に日光の事を説明してくれていた友のお陰で、特には何も言われなかった。


それから全員が食べ終わり、食後の紅茶を頂いていた時…



「…ところでアルトさん、今日はもう出るのかね?」


『えぇ、そのつもりです。

 いつまでも お邪魔するわけにはいきませんし…』


「………」



彼女からすれば ここに長居する理由もなく、すればする程、容姿的なもので 後々面倒になる。

そんな事知る由もないエリナが、隣でしゅんとしたのは ほんのり気付いていたが。



「そうか……その事なんだが、しばらくここに居てくれないか?」


『…え?』



突然押しかけた(形になった)自分を引き止めるとは、思ってもみなかった。

驚きで、素っ頓狂な声をあげるアルト。



「実を言うと、我々は1ヶ月後 インドへ引っ越す事になっていてね。

 それまででいいから、エリナが一緒に居てほしいというんだ。

 ほら エリナ、後は自分で言いなさい」


「はい…」



お互いに持っていたカップを皿に置き、向かい合うエリナとアルト。



『………』


「………」



ほんのちょっと沈黙が流れるが、口火を切ったのは 少女の方。



「…あの、アルト。

 わたし、アルトともっとお話とかしたいの。

 後1ヶ月しかないけど…それだけでも 一緒に居てほしい。


 …お願いします」



座ったままで 頭を下げる。

よく見ると 膝の上で拳も作っており、懸命な願いだと感じられた。



「…!」



気持ちを理解したアルトは、俯いている彼女の頭に手を置く。



『…さっきはちょっと、冷たく言い過ぎてしまったわね。

 泊めてもらうのは凄く嬉しいわ。

 宿屋のお金は浮くし、美味しい料理が食べられるし……なにより、私も貴女と もっと話をしたかったしね』



ニッコリと偽りのない満面の笑みを浮かべ、優しく頭を撫でる。

彼女の口から出たのは 否定ではなく、肯定の言葉だった。



「ほんとに…ほんとにいいの…?」


『えぇ、もちろんよ』


「…っ……アルトッ!!」


『おっと……フフッ』



嬉しさのあまり、年相応の反応として抱きついたエリナ。

少し驚いたが しっかり受けとめ、撫でる手を止めない。


それを実行しながらも、アルトは反対側の両親へ首だけ向いた。



『…と、いう事で……後1か月、お世話になりますね』



ニコリと笑った女性の言葉に、2人は嬉しそうに頷いてくれたという。



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