-闇の血の戦乙女-

□1.【闇と悪】
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時は19世紀 1880年のロンドン。


大きな時計台が目立つこの街で“彼”は生きていた。



「……あの男、この僕によくも…!」



路上に唾を吐き、眉間に皺を寄せまくっている少年。

金色【こんじき】の美しい髪に、オレンジの瞳。


名を ディオ・ブランドー。

貧民街に身を置く ブランドー家のひとり息子である。


彼は本日、酒場にて金を賭けたチェス勝負を行い 見事勝利。

だが相手をした男は、自らが負けたにもかかわらず ディオの顔を料理へ打ち付けたのだ。



「クソ……まぁいい。もうすぐ“アイツ”は死ぬ。

 そうすれば、僕は自由だ…!」



まだ少年といえる歳にしては、恐ろしく歪んだ笑顔。

彼の境遇や育ちが、歪ませてしまったと思う者も多いはず。


だが違う。

ディオ・ブランドーは【生まれついての悪】なのだ。


それは後々、分かる事だが。



「…!」



帰路に着くディオの前方。

立ち塞がる様に、3人の男が現れた。



《よぉディオ、元気かぁ?》


「………」



先程のディオとは違い、ゲスな笑みを浮かべている男達。

少年はただ、静かに睨む。



《へへっ、元気な訳ねぇよなぁ?

 なんてったって、お前の親父が死にかけてんだしよぉ〜?》


「!? (何だと…!?)」


《知ってるぜぇ〜?

 お前がチェスをやってんのも、薬を買うためだってな!》



ゲラゲラと五月蝿く笑いまくる。

彼の“計画”に気付いている様子はないが、馬鹿にした態度に 黙っていられる性格ではない。



「(こんのクズ共〜…!)

 …どこから聞いたのか知らないが、覚悟はできてるんだぁろうな!?」



瞬時に構え、臨戦体制をとる。

怒りっぽい成長途中の少年ながら、強さは一流で通っている彼だが…


男達は怯む様子もなく、ただ余裕のある笑みだった。



「(なんだコイツ等…何か企んでいるのか…?)」


《ディ〜オ〜、俺達に喧嘩売って 生きて帰れると思ってんのかぁ?》


「何言ってる。いつも逃げて帰るのはお前等の方だろう」


《…ハッ、余裕かませるのもそこまでだ。


 野郎共! 出てこい!!》


「! チッ…」



リーダーなのか、ひとりの声を合図に どこからともなく現れる数十人の男。

いくら強いといっても、彼はまだ子供であるが故 明らかに不利な状況。

舌打ちを零し、少し冷や汗をかいている。



《助けを呼ぼうなんて考えるなよぉ?

 なんたってここは 食屍鬼街【オウガーストリート】

 こんな所に来たお前が悪いんだからなぁ!!》



そう、ディオが今いるここは ロンドン内のある区画。

通称 食屍鬼街【オウガーストリート】

名前の通り 荒くれ者が屍を貪る様に、何も知らずに迷い込んだ人間を襲う。

殺しだって頻繁に起きていると。


では何故こんな所にディオはいたのか?

その事実は、また後日お話しよう。


話は現実に戻り、この場所で。

今の彼には、絶体絶命という言葉が似合っていると思う。

先程も言ったが、いくら強くても子供なのだ。


男達も各々武器を持ち、今にも戦いが始まると思われた。



[カツン…]



その時、ひと時の静寂を 石と靴からできる独特の音がやぶる。


一音だけなら気のせいだっただろう。

だが、あろうことか色々大変なここに どんどん近付いてきている。



「(誰だ…またコイツ等の仲間か!?)」


《(遅れた奴なんていたか…? 他は呼んでねぇと思うが…)》



ディオも リーダーの男も、誰もだれかなんて分からなかった。

お互い声には出していないので、謎は深まるばかり。


それでも音は止まず、やはりこちらに迫っている。



「(足音が…止まった…?)」



一定のリズムは、唐突に終わりを告げた。



「…!?」



背後の気配にすり変わることで。



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