-叶わぬ者からの愛-

□#1【理想開始の前日】
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ここは死後の世界 尸魂界【ソウル・ソサエティ】

現世では天国として伝えられている。


天使が住んでるとか、神様がいるとか、幻想的なものはなく…

実際はびこっているのは、現世から送られた【魂魄】と 送った【死神】


そして“霊王”だ。



* * *



木で出来た日本独特の廊下を、足袋で歩く事でくぐもった音が響く。

それと同時に、床を棒で打ち付けたような音。


ここは死神の住む瀞霊廷 一番隊 隊舎。

床を踏む足音が向かうのは隊首室であり、その数は“2人”



《総隊長! 副隊長! おはようございます!》


「お早う」


『おはよ!』


《おはようございます!》


『おはよ〜!』



2人に敬語で挨拶するのは、一番隊の隊士達。

大して返す内の1人は、この一番隊隊長 及び護廷十三隊総隊長を務める 山本元柳斎重國。

先程足音と共に響いていたのは、彼の持つ杖であった。



「山本総隊長 採錬副隊長、お早う御座います」


『おはよーございます、源さん♪』



一番隊 第三席 沖牙 源志郎からの挨拶を、ニッコリ笑顔で返す彼女。


名を 採錬 鈴風。

一番隊 第二副隊長であり、一番隊隊長格(+三席)の紅一点。

海を溶かし込んだような青髪に、琥珀の如く明るい金の瞳。

編み込まれた両前横髪の内 左に、その瞳と同じ色で輝く 金のクロス型髪飾りが目を引く。



「お早う。

 …鈴風よ、ちゃんと挨拶せい」


『えー? してるじゃないですか〜、お爺様』


「まったく……それと隊務中はそう呼ぶなと何度言わせるんじゃ!」


『あぁすみません“総隊長”、ついクセで♪』


「(相変わらずですな…お二人とも)」



隊首室に向かう最中、廊下を歩きながら騒いでいる。

歳の差が見た目も実年齢も大幅にあるにも関わらず、だ。


それは、この2人が家族…正確にいえば祖父と孫だからである。

“お爺様”と言ったのもその証拠。


もうひとついうと、鈴風は養子なので義理だが。



「ふぅ……ゆくぞ、長次郎を待たせておるのじゃからな」


『はーい。それじゃあ源さん、失礼しました〜』


「こちらこそ。失礼します、総隊長」


「うむ…」



大きい溜息の後、話を切って先に進み始めた総隊長。

もちろん副隊長である鈴風が黙って見ていられる訳もなく、沖牙に一礼と手を振って後を追う。


残された彼は、2人の背中を見送った。



───…



「すまんの長次郎、待たせてしもうた」


『おはようございま〜す、長さん』


「いえ、私も着いたばかりなのでお気にならさず……それとお早う、採錬。

 (相変わらずの温度差…)」



隊首室の戸が開いた瞬間、内容が違いすぎる2人の言葉。

先客であった 一番隊 第一副隊長 雀部 長次郎は、ほんの少し顔を引きつらせていた。

だがそこは相変わらず過ぎるのか、気付かれない程度である。



「(全く……) ほれ、仕事じゃぞ。

 長次郎、出来ておるか?」


「こちらに。今日の分だ、採錬」


『ありがとござま〜す。えーっと今日は〜…』



雀部から渡された書類の束を受け取り、目を通す。

これは彼女の いつもの仕事。


鈴風は副隊長の他に、隠密機動第五分隊:裏廷隊 分隊長も任されている。

裏廷隊とは、伝令を主な仕事とする組織で 瞬歩の使い手が多い。

分隊長である彼女は 勿論その中で最速であり、副隊長の中でも最速。


かつて「瞬神」と呼ばれた“あの方”に適うかは別だが。


そんな実力も示唆して、鈴風に頼まれる副隊長業務は 他隊への書類届けが主なのだ。

他の仕事が出来ないとかではない。


そして今日も、どの隊へ届けるか確認していた今に戻るが…



『…ん?』



ふと 疑問の声を漏らす鈴風。

目線はそのままに、ススス…と総隊長の隣へ移動した。



『あのーおじ…じゃなくて総隊長、今日届ける分ってもしかして…全隊ですか?』


「そうじゃ。なんじゃ嫌なのか?」


『違いますって〜。

 いやー流石のあたしでも全隊廻ってたら、終業時間過ぎるかもと思いまして…』


「あぁそれか…良いぞ」


『…え?』



短い言葉で返されたので、すぐに意味を理解できなかった。

ちょっと落ち着いて考えるも、口から出たのはまたもや疑問の声。



『……いいんです?』


「…書類届けが終わったら、好きにせい。

 机上の仕事も今日は少ないからの。

 長次郎、良いじゃろ?」


「御意に。こちらは任せてくれていいぞ」


『…!』



2人の、特に総隊長(義祖父)の遠回しだが優しい言葉。


ようやく意味を理解し、鈴風は瞬く間に笑顔となった。



『ありがとうございます お爺様、長さん!

 お言葉に甘えて行ってきま〜す!!』



勢いよく障子を閉め、勢いよく走り去っていった第二副隊長。

もう一度言う“一番隊”副隊長です。



「…もう少し静かに行けんのかあやつは……」


「………」



苦笑いしか出てこないとは、こういう事である。



*
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