-黒赤天使の羽は何色?-

□Story.3【大切な約束】
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《ぐあっ……テ…テメェ…っ》



この状況、誰もが驚愕を起こすだろう。


何故ならば 大人の半分にも満たない背丈の少女が、

青年の胸倉を掴んで、何の感情もない表情で見下ろしていたからだ。



《…っ、こんな事して…タダで済むと思ってんのかっ…テメェも…“ソーマ”みたいにっ───あ、かっ…!?》



【ソーマ】の名を出した途端、力を強めるイスカ。


生まれつき オラクル細胞と適合している為、信じられない程の怪力で。

おそらく無意識である。



『…ソーマを、わるくいうひと…てき【敵】…アラガミとおんなじ…てき【敵】……だから、おまえは…───』


《ヒッ…!》



自分でも止められない 止め方を知らない狂気に駆られ、どんどん力を込めていく。

男は恐怖で青ざめ、意識が遠のいていった。


このままでは絞め殺してしまう、その時…



『…!』



何者かが、彼女を二の腕を掴んだ。


必然的にそちらを向いたイスカは、やっと我に返る。



『……ソー…マ…?』


「………」



会って話がしたいと思っていた彼が、そこにいたのだから。



[ドサッ!]



まるで物でも落とすようだが、パッと手を離して男を解放。

今はそれどころではない。



「……来い」


『うぇ!?』



しばらく黙っていたソーマは、掴んだままの二の腕を引く。

唐突に引っ張られたイスカは、歩き出した彼の後ろを 付いていく形になった。


残された男達が発見されるのは、それから少し後である。



───…



ずっと無言で歩き続け エレベーターに乗り 着いたのは、アナグラの屋上だった。



『ふえ…こんなところあったんだー…』



キョロキョロと辺りを見回し、興味津々なご様子のイスカ。

緊張感台無しだが、(精神)年齢的に 好奇心が勝るのだ。



「………」



一応理解している彼は、何も言わず 手も離さない。

離すと多分、どこかへ行ってしまうからだ。


振り返り、向き合ったソーマは 頭に『?』を浮かべている彼女を見つめる。



「…アイツらに、何かされたのか」



まず浮かんだ疑問は それだった。



『ううん、されてないよ?』



そして即答するイスカ。



「…何であんなことした」



次に というか、そもそもの原因がなにかを聞く。



『ソーマをわるくいったから…』


「…!」



これも即答。


さっきは何も言わなかったが、答えが自分に関してだったので 目を見開いて驚いた。



『…ソーマ、イスカのはじめての ともだち【友達】だから。

 ともだち【友達】のわるぐちいうやつ、てき【敵】!』


「イスカ…」



彼にとって イスカの言葉は、生涯初めて聞くものだった。


何故なら 今まで【友達】といえる者はおらず、悪口を言ったからって その人間をこてんぱんにする者も、居なかったからだ。



「…俺は…」


『?』


「俺は…ふつうの人間とちがう。お前と似ているかもしれないが、お前ともちがう。

 …俺は、生まれた時に……親をころしたんだ」



自然と 彼女の二の腕を掴む手に、力が入る。

痛くなる様なものではないが 少女はチラリとそっちに目を向け、再び彼を見た。


決して驚愕や嫌悪ではない、少し真剣な瞳で。



『…それ、イスカもおなじ』


「…!?」


『サカキパパからきいたことあるの。

 イスカがうまれたときに、イスカのなかの おらくるさいぼう【オラクル細胞】が、あらがみをよんで…おやがしんだって。

 だからおなじ。ふつうのにんげんじゃないのも、おなじ。

 ソーマは…ひとりじゃないよ!』



『えへ!』と満面の笑顔なイスカ。

嘘偽りのない、純粋な。


意味が分かっていない訳ではない。

自分の事情を 彼の事情を 理解しているからこその言葉。



『パパ、じぶんと“おなじひと”は ともだち【友達】だっていってた。

 だから、ソーマは ともだち【友達】あくしゅ【握手】おしえてくれたのも、ともだち【友達】


 …イスカ、ソーマともっとおはなししたい。

 ともだち【友達】と、もっともっとおはなししたい!!』


「………」



ここでやっと、彼に言いたかった事を述べる。


しかし、ソーマは未だ 無言。

ついでにいうと 俯いて顔が見えない。

流石におかしいと思い『ソーマ…?』と様子を伺ったイスカ。


そこから1分くらいして、少年は顔を上げた。



「……分かった」


『…!』


「…お前に約束する。だから、お前も約束しろ…【これからもずっと、一緒にいる】って」



幼い頃…いや、生まれた時から 彼はひとりで。


父であるヨハネスは、実の息子に対して冷たく。

周りの大人が 最初に自分を見る目に、必ず畏怖が篭っていたり。

同年代の子供だって、大人に吹き込まれたのか 近付こうともしない。


だから、ソーマはこの歳で諦めていた。

自分は これからも独りだと。

誰かが傍にいても、その人を傷付けるだけだと。


なのに、今 目の前にいる少女は 自分を【独り】にしなかった。


これは、少年の願いでもある。

叶うかどうかなんて分からない。


ただ…遠ざけたのに 自ら近づいてきて『おはなししたい』だなんて言った彼女から、これ以上“離れたくなかった”



『やくそく…やくそく……うん、する!

 イスカ、ソーマとずーっとずーっといっしょにいるー!

 やくそく…するときは、えっとー……』


「たしか…指切り、だったか。こゆび出せ」


『うん!』



お互い出した小指を結ぶ。

『やくそく〜♪やくそく〜♪』とルンルンしているイスカを見て、自然と優しい表情になったソーマであった。



───こうして、屋上で交わした約束は 幕を閉じた。


次の幕開けは、ゴッドイーターへの1歩。



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