-黒赤天使の羽は何色?-

□Story.1【荒ぶる神と 寄りの赤子】
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では、時間を現在へと戻そう。


先日保護された赤子。

報告書の通り、生後0ヶ月…いや 発見された1月4日に産まれたばかりであろう。

うっすらと生えた髪は黒色であり、恐らくアジア系。


家屋から両親の身分証明書が見つかり、名字は「桐雪」

日本名だというのが解った。


この様に、アラガミの被害にあった場所から人を保護するのは珍しい事ではないが、今までと今回で違う点がある。


それは“怪我の有無”

今までだと保護されたとしても 必ず捕食で怪我をしているか、最悪五体満足ではなくなったり等が一般的。


だがこの赤子は、報告書にもあるが無傷なのである。

まるで、この子に触れなかったかのように。


妻を亡くした事故から 再起不能と言わんばかりに休職しているヨハネス。

主任に代わり サカキが自らの監視下に置いたのも、これが理由。

生粋の技術者としての血が騒ぐのか、“謎”と言われた事例に関心を寄せた。



* * *



「これは……君の口癖を借りるならば 非常に興味深いよ、ペイラー」


「やはり君ならそう言うと思ってたよ、ヨハン」



赤子が保護されてから、1年が経った。


“目的”を見付けた彼 ヨハネスを呼び、サカキはフェンリル本部 極秘研究室へ。

PC画面の事柄に ヨハンは少なからず驚いていた。


いつものメディカルチェックの結果が表示されているのだが、内容をそのまま読み上げると…


〔体内にオラクル細胞の反応あり〕

〔全細胞中 約70%〕

〔尚 捕食の傾向もみられず 安定している〕


【オラクル細胞】

アラガミを構成する「考えて、喰らう細胞」であり、これがあるからこそ奴らは消えない。


逆にいえば、アラガミの体内にしか存在しない細胞。

ゴッドイーターの様に 人為的に移植でもされなければ、実験で 生まれる前に投与でもされなければ、生まれ持っている筈がないのだ。



「何故オラクル細胞を生まれ持ったのか、何故ここまで安定しているのか…現段階でも分かっていない。

 …この子は本当に、面白いね」


「………」


「…ヨハン?」



ふと、目の前のベッドで起き上がった幼児を見つめる彼。

ゆっくりと手を伸ばし、頭に手を触れた。



「…君は、一体何者なんだ…?」


『あうー…?』



座り込んだまま、真っ赤な色の瞳をヨハネスに向ける。

しばらくそのままだったが「フッ…」と口角を上げた後、幼女を優しく抱き上げた。



「そういえば、名前はあるのか?発見された時に、名字しか分からなかったんだろう?」


「あぁ、だから僕が名付けたんだ。ファミリーネームに合うように「イスカ」とね」


「イスカ…良い名前じゃないか。

 ペイラーが引き取り手となっているが、私も出来るだけ この子の面倒を見よう。

 桐雪イスカ、これからよろしく」


『?イスカー!』



サカキに名を与えられた子供 桐雪 イスカ。


彼女はこれから、どんな運命を辿っていくのだろうか。


その話は…また今度。



───こうして、赤子の誕生は幕を閉じた。


次の幕開けは、数年後のお話。



*
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