-人精の迫 造られた命-

□Episode.2【英霊の聖地と紅瞳の少年】
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追放を言い渡されたその日、族長の指示でシャン・ドゥへ。

指示、というよりも助言のようなものだった。



‘シャン・ドゥへ着いたら、武器屋を訪ねるといい。

 家と仕事の手配ぐらいはさせる。

 …どこかで野垂れ死にでもされたら、ロンダウ族の名が廃るのでな’



彼なりに ツイルが路頭に迷わぬ様、色々と手配してくれたのだろう。

なんの問題もなく、無事シャン・ドゥに着いたツイル。


初めて町というものに赴き、初めて沢山の人間を目にして、暫くほうけてしまった。



『(……あ、ついボーッとしてしまいました……

 とにかく、ぶきや【武器屋】をさがしましょう…!)』



何かを打ち払う様に首を振り、前へ進み出す。



『(こういうときは…人にたずねるといいとにいさまが……にいさま…)』



兄 リインの事を思い出し、足を止めて俯くツイル。

彼女にとってリインは、かけがえのないたったひとりの家族だったのだから。



『(…もう、にいさまには会えない……会ってはいけないんです……)』



くしゃりと両手拳を作る。

でないと涙が出そうだったから。



[チチチ…チュンチュン!]


[チチチチチチ!]


『…え?』



ふと頭上…正確にいえば空から、鳥の鳴き声が耳に入った。


彼女にとって聞き覚えがある声に見上げると…



『…ことり…さん…?』


[チュンチュン!]


[チュンチュンチュン!]



自然にツイルの肩へ留まった、2匹の小鳥。

1匹は黒 もう1匹は白。

彼女の瞳と同じ色の小鳥達は、ツイルの唯一の友達だった。


キタル族の様に獣隷術を使えるわけではないが、2匹の鳥は 迷わず彼女の元へ。



『あなたたち…どうして?

 私はもう、あの森にいられないのに…』


[チチチ!]


[チュン!]


『…私と、いっしょにいてくれるの…?』


[[チュンチュン!]]


『……ありがとう…』



我慢していた涙が頬を伝う。

でも、涙の意味はまるで違ったのだ。


地面に落ちる前に拭い、小鳥達へ笑顔を向ける。



『…あとで、名前をかんがえてもいいですか?』


[[ピヨピヨ!]]


『…ありがとうございます』



小鳥の顎や頭を優しく撫でてあげるツイル。


彼女は優しい笑みを浮かべていたという。



───…



気を取直して武器屋の捜索を始めたツイル。

道行く人に聞いていき、お店の場所を知れた。

早速向かうことにする。



『…それにしても…───』



ツイルはそっと、自分の右目に触れる。



『(私の ようし【容姿】…右目のこと、なにも言われませんでした……)』



彼女の右目…つまり、右と左で瞳の色が違う オッドアイ。


ロンダウ族で散々忌み嫌われ、身寄りのないツイルはたった4歳で、独り 森の奥に住まわされた。

そんな経験を簡単に乗り越える事なんて出来ず、いつもいつも人の顔色を窺うようになった。

不快な気持ちにさせないように、言葉も敬語を覚えた。

伸びた前髪を毎日整え、右目が隠れるような分け目にした。


4歳にしてはかなり頭の回る方だったツイルは、

年相応にあるまじき考え方で自分を守ろうとしたのだ。



『(…ふかくかんがえたって、仕方ありませんよね……まえがみで見えなかっただけかもしれませんし…)』



そうこう思案している内に、目的の武器屋へ到着。

場所は、橋近くの出店だった。

おずおずと様子を伺い、店員のおじさんに話しかけた。



『…あ…あの…』


「ん? どうしたお嬢ちゃん、お使いか?」


『いえ、その……ラーシュさまから、シャン・ドゥのぶきやをたずねるようにと、おおせつかったのですが…』


「! ラーシュ…」



“ラーシュ”の名を出した途端、表情を変えたおじさん。

【こういう時は 大抵皆嫌な顔をする】という経験から、ビクリと肩を震わせるツイル。


でも、経験からの予想は見事に外れた。

彼は笑っていたのだ。

何かを企んでるとか、嘲笑うとか、そんなマイナス要素の笑顔ではなくて。


優しくて温かいものだった。



「ラーシュから話は聞いているよ…大変だったね」


『え…』


「大丈夫、君の事は私が面倒見るよ。心配しなくていいからね」


『(…にいさまと…同じことば……)』



大切な兄は、自分を守ると言ってくれた。

この人も、少なくとも他の大人とは違う言葉をかけてくれた。


いつのまにか傍に来てくれたおじさんは、彼女の頭を撫でてくれている。

肩の小鳥たちもピヨピヨとさえずりを上げていた。



「私の名はコラム。君の名は?」


『…ツイル・ロンダウ…です』


「そうか、ツイル…これからよろしくな」


『…はい!』



俯いていた顔を上げた時、彼女は満面の笑みだったという。



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