-人に戻れた屍-

□#001【OCHIMUSHA 〜テルと御魂師〜】
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『ここにくるの久し振りだなー…ま、卒業してたら普通来ないもんね』



何故かこの場所だけ、にわか雨が降る中。


2年程訪れていなかった 黒酢中学校。

高校は比較的近くにあるものの、前を通るだけだったため。



『…やっぱり、さっき感じた変な感覚がする……瓦礫はここの…?…なるほどねー…』



先程の超常現象は、校舎で行われたものだとルフが教えてくれた。

にしては目立った変化がないと一瞥して傘を閉じ、前方を見直すと。



『(誰か来る…あ、“筋肉”ってあれか…)』



数人の男子がこちらへ歩いてくる。

目が悪い莉衣花でも見えるくらい、筋骨隆々としていて。


邪魔になるだろうと、正門の端で通り過ぎるのを待つ。



「(女の人…生徒かな…でも背が高いし…───)」



集団の1人 影山茂夫(通称モブ)は、この悪天候の中 ショートパンツで立っている女性に気付く。

見た事の無い色の瞳で、自然と目を引かれた。



『(…黒酢中の体操服じゃない…他校の生徒かな…?


 …あのおかっぱ頭の子、可愛いな…)』



一方 岸田莉衣花は、1番背の低い男子に気付く。

全然筋肉がついてない所が目立ち、自然と目で追った。


必然的に目が合った2人は、お互い一瞬驚く。



「…!?」



彼女にとってはクセでもあるが ニコリと笑顔を向けた。

もちろん慣れている筈もない茂夫は、吃驚して紅くなる。


先を急ぐ莉衣花は気づくこともなく、駆け足で校庭に入っていく。



「(…あの人、どうしてここに……)」



振り返るモブは、メッシュ髪の背中を 心に刻むのであった。



『あ、居た…テルー!』



お目当ての人物は、比較的早く発見。

玄関前辺りで俯く背中に、確信をもって名を呼ぶ。



「…えっ……リィカ…!?」


『…ありゃま、思ったより悲惨』



思った通り本人であったが、普段と違う点がいくつか。

言ノ葉にもあった“落ち武者”頭なのと、まさかの全裸。



「ちょっ…な、何でここに…」



慌てて股間を隠し、恥ずかしさで紅く染まる輝気。


足は止めず、目の前までいくと 用意していたブランケットを頭から羽織らせ 首にトートバッグも掛けた。



『はいこれ、着替え一式。

 今の所誰もいないけど、雨も降りそうだし 学校の中で着替えなよ』


「え…ど、どうして…」


『さっきから質問ばっかりね。

 そんなの言わなくてもわかってるでしょ? なんとなく、よ』



一瞬 何が起こったか分からず固まったテルだが、見上げた彼女は 優しい笑みを浮かべていた。

嘲りや憐れみからくる様なものではなく。


彼の心にある 靄【もや】が、少し落ちたような気がした。



『ほら、外で待ってるから』


「う、うん…」



胸の前でブランケットを押さえながら、裸足のまま玄関を上がる。

校内には幸い誰もおらず、靴箱を壁にして着替え始めた。

といっても1度瓦礫化しているので、逆に人が居たら怖い。



「(…リィカは昔からそうだ…僕の欲しいものや、食べたい献立を当ててくる…『なんとなく』って言って)」



チラリと入口の方を見ると、スマホをいじっている莉衣花。

テルが見ている事に気付いていない。



「(…この服、リィカが選んでくれたんだよな…

 最近あまり話もしてなかったのに、こうやって世話を焼いてくれる…


 …僕にも、居たんじゃないか…仲間…ううん、大切な人が)」



冷え切ってしまっていた身体が、服を着ただけなのに 温まった感覚がする。

気持ちの持ちようであるものの、今の彼には充分な効果だった。


能力ありきで築いた 偽りの関係より、よっぽど。

孤独感から解放されたのである。



「お待たせ、リィカ」


『おかえり…ちょっと見えてるよ』



女子にしては背の高い彼女は、フードを引っ張り ついでに服も整えてあげる。

最後にポンポンと、撫でる要領で頭を軽く叩いた。

「あ、ありがとう…」とお礼を言えた親戚に、満足して笑顔。


彼が紅くなっていたのには、見えなくて気付かなかった。



『…さてと! それじゃあ晩御飯の食材、買いに行こうか。

 テルも一緒に食べるでしょ?』


「…いいの?」


『もちろんよ。でも疲れてない? なんなら先に帰ってても…───

「い、一緒に行くよ! 荷物も持つし!」



具体的にどうなったかは聞けていないが、大変な目にあったのは一目瞭然。

かなり体力を使っているのだろうから提案してみると、大丈夫らしい。

遮ってまで答えたのがその証拠…だと思う。



『…そっか、ありがと』



勢いに驚きながら、純粋に嬉しくて微笑む莉衣花。


割れた雲は既に閉じ 雨の勢いが強くなっていても、温かさは変わらない。



───こうして、着衣の配達は 幕を閉じた。


次の幕開けは、数年越しのわだかまり。



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