-人に戻れた屍-

□#002【和解 〜大切な存在〜】
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輝気は順を追って、話し始めた。


自分が超能力者であること。

力を使って裏番になったこと。

放課後 番長に呼び出された黒酢中で、自分と同じ超能力者 ナチュラルに会ったこと。


その塩中に通う男子 影山茂夫に、負けたこと。



『…テルが、超能力者…ね。

 (影山茂夫…もしかして、すれ違った体操服男子の中にいたのかな…)』


「さっきのニュースで岩が浮いてたのは、念力操作なんだ。

 ほら、こうやって…」



彼が指を 足元の机に向けると、乗せたコップが光る。

ふわりと宙に浮かび、運ばれて行った先は 莉衣花の手。



『(…間近で見たのは久し振りかも)』



特に何も発さず、一連の流れを見つめていた彼女。


テルからすれば 固まっているように見えた様で、どんどん表情が暗くなった。



「…やっぱり、変だよね」


『…!』



折角なので口を付けると、隣から弱気な声。


ジュースを飲み終え コップをテーブルに戻してから、もう1度幼馴染みを見る。



『…自分で超能力は変だって思うの?』


「変というか…むしろこの力で助けられた所はいっぱいあるよ。

 …でも、僕は使い方を間違ってた。

 たくさんの人を傷付けた。


 こんな…こんな力、他の人からすれば おかしいかなって思えてきちゃって……」



膝上で握る手が震えている。

改めて考えたからこそ、良い所も悪い所も気付けた。

自分と他人の感覚は 違うものだとも。



『(…テルが反省してるの、初めて見たな……この子も、変わろうとしてる)』



さっきも言ったが、こんなにしおらしい彼はあまり記憶に無い。


関心しつつも 掛けるべき言葉の為に、瞼を落とした。



『…確かに、普通の人からすれば 凄いを通り越して、気味悪がったりするかもしれない』


「っ…」



息を詰まらせる音は 隣から。

敢えて顔を見ず、続ける。



『…でも、私はテルの力を…テル自身を誇りに思うよ。

 怪我させちゃったのはダメだけど、これから良い事に使ってったらいいんだから』



最後に振り向き、フード越しに頭を撫でた。

目を見開いた輝気に、微笑みを向けて。



「…リィカ…驚かない、の…?」


『…あー、えっと…あのね、テル』



しかし痛い所、というか核心を突かれてしまう。

出来るなら穏便に片付けたかったが、聡明な彼が 疑問を抱かないはずはなく。


少し間をあけ 諦めから大きく溜息を吐いた。



『…実はね、最初から知ってたんだ。テルが超能力者ってこと』


「…ええっ!?」



顔の前で手を合わせ 眉は下がりながら謝罪。

まさかの事実に、テルは驚きを隠せない。



『黙っててごめんね…いつでも話せると思って、後回しにしてた』


「そうだったんだ…(僕の勇気の意味…)


 …じゃ、じゃあ…ずっと知ってたのに…僕を突き放さなかったの…?」


『どうして貴方を突き放す必要があるのよ。

 テルは私の、大切で大好きな家族なんだから』


「リィカ…(家族…弟みたいな意味なんだろうな…

 …なんて、これ以上を高望みしちゃうなんて、烏滸がましいよ…)」



騙していたとかではなく 言う機会を伺っていたら今になった、という。

だからといって 誰かにバラしたりする人間ではない。

かけがえのない存在なら尚更。


彼女の言葉は純粋に嬉しいが、欲張るなら 垣根を越えたかったとか。



『それに…私も貴方に言わなきゃいけないことがあったから』


「僕に…?」


『見てもらった方が早いかもね…ルフ』



せっかく勇気を出して話してくれたのだから、こちらも隠したままでは不公平。

左の掌を、テルの前まで持っていく。

頭に「…?」を浮かべる彼が面白くて、クスリと微笑みながらも 相棒を呼んだ。


すると、ポンッという音と共に 光が弾ける。

そして掌へ乗っている、小さな狼。



「っ…!?」



数秒固まったものの、ぱちぱちと瞬かせ 少々仰け反った。

対してルフの方は、おすわりして足で耳をかいている。



「リィカっ、これ…っ!?」


『これとは失礼ね。ルフは私の守護霊みたいな感じよ』



もう1度名を呼ぶと、腕を伝って肩に来た。

お互い頬擦りしあう所から、仲は良さそうである。



「守護霊…!? ってことは、リィカは…」


『私は、魂から力を引き出すことの出来る 魂操術【こんそうじゅつ】が使えるの。

 超能力と同じ分類かは分からないけど、普通の人間じゃないのは確かかな』



さらりと説明する莉衣花。

どちらにしても、結論は同じな様で同じでない能力持ち。

話を聞きながら、テルは親近感が少し増した。



「魂操術【こんそうじゅつ】…初めて聞いたよ」


『私も、おじいちゃんから名称を聞いたんだ。

 今まで同じ力を持った人には会ったことないけど。

 とりあえず不便かなーと思って、私みたいな能力者を 御魂師【みたまし】って呼ぶことにしたよ』



超能力でさえ、目立たせなければ使える人間は少ない。

魂を操るなど 更に希少。


居る居ないは置いといて、彼女は何故かドヤ顔。

その様子も可愛いと思いつつ「(…それ、使い所あるの?…とは言わないでおこう)」と口を噤んだのであった。



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