-陽竜志昇記-

□第1回【崑崙のふんわり仙女:前編】
3ページ/4ページ




『道徳様〜!』


「ん? お、焚播龍美じゃないか!」



次に着いたのは、清虚道徳真君の住まい 青峯山紫陽洞。


といっても、外から見える近くの岩場で 筋トレをしていたので、足をつく前に話しかけた。



「どうした? 修行の申し出なら今すぐにでも受け付けるが…」


『違う違う、今日は大丈夫。太乙様からお届けものだよ、道徳様』



若葉色のジャージに身を包んだ彼は、通称 体育会系。

まだ何も言ってないのに、運動させようとする。

真っ向から否定し、黒筒を外した。



「おぉ、莫耶の宝剣〔ばくやのほうけん〕! 調整終わったんだな、助かるよ!

 早く 宝貝【パオペエ】を触りたいって、天化が騒いでたんだ」


『天化? それってもしかして、弟子の名前?』


「あぁ…そうだ、折角だし お前が直接渡してやってくれ!」


『いいの? 1度会ってみたかったから是非!』



道徳の手へ置く前に引っ込め、彼の後ろを歩く。

近くの浮岩をひょいひょい昇っていくと、四角い線が引かれたフィールドに着いた。



「おーい天化ー!」


「ん、コーチ…と、お客さん?」



上空の岩に腰掛けて、空を見る少年。

黒い短髪 鼻頭の真っ直ぐな傷 額に巻いた布。


師匠の姿と 隣に見慣れない女性を見付け、容易く跳んで着地した。



『初めまして、あたしは焚播龍美。元始天尊様の助手ってとこかな。よろしくね』


「俺っちは黄天化、コーチの弟子っす。よろしく、焚播龍美さん」


『「さん」なんて要らないわよ〜。あ、そうそう 貴方にこれを渡したくて…』



彼の前に手を出すと、握手を返してくれる。

10代近くに見えるが 掌のゴツゴツとした感触から、相当の修行を積んでいるのだと感じた。


元々敬称を気にしない質なので、タメ口で大丈夫と付け加えて 今度こそ黒筒を差し出す。



「…おぉぉぉ!! これってコーチが言ってた俺っちの 宝貝【パオペエ】!? わざわざ届けに来てくれたんか!?」


『莫耶の宝剣〔ばくやのほうけん〕よ。太乙様がすぐ届けるように聞いてたって』


「早く 宝貝【パオペエ】使ってみたかったんさ! やっと許可おりたし、俺っちもっと強くなりてぇから…!」


『ふーん、まじめねー…(なんか“アイツ”に似てる…強さ求めるとこは)』



嬉嬉として受け取り、喜ぶ天化は 歳相応に見えた。

修行歴がまだ浅いというのは聞いていたので。


同時に思い出す。

仰々しい仙人名があるにも関わらず、道士として修行を続ける男を。



「…なぁ、あーたって強いか?」


『え? うーん…多分?』



ポチポチと刃を出し入れして しばらく見つめた後、焚播龍美に向き直る。

その瞳に、真剣さが滲んでいることを 彼女はほんのり感じた。

だが自分の実力に関してそれほど興味がなかった為、曖昧な返事に。



「彼女は強いぞ、オレが保証する!」


『ちょっと道徳様〜』



後ろの道徳真君がやっと喋る。

普段から無口でもないのに、何故か見守っていたようだ。


それは置いといて、十二仙では中々の強さである彼からお墨付きを頂く。



「(コーチが認めるってことは、中々さね…おっし!)

 良かったら、俺っちと手合わせしてほしーさ! 今すぐ身体動かしたくて仕方ねぇんだ!!」



ずいっと勢いで身を乗り出して、頼み込む彼。

身長は自分の方が上だが、顔の近さに 思わず目を丸くしたリミ。



『うわっ! びっくりした…手合わせは全然構わないけど、あたし剣系統の 宝貝【パオペエ】は持ってないわよ』


「なら、オレのを貸そう!」


『道徳様…おぉ、莫耶の宝剣II〔ばくやのほうけん・ツー〕…』



今度はコーチが黒い筒を渡す。

しかし天化と違うのは、若干作りが異なること。


カチリとボタンを押すと、両端から光の刃が伸びた。

中央の柄を持ち、くるくる回して感触を確かめる。



『…うん。良いわよ、天化』


「よっしゃあっ!」



ニコリと向き直り、了承した彼女。

両手で拳を握った少年も、笑顔になる。


それぞれフィールドの所定位置についた。



「ルールは、どちらかが1本取れば終了だ。

 使い慣れていない 宝貝【パオペエ】だし、万が一の事もあるしな。

 2人共、準備はいいか?」


「『あぁ!/うん!』」



*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ