-陽竜志昇記-

□第1回【崑崙のふんわり仙女:前編】
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玉虚宮を出て 数分飛んだ所にある浮いた土地。


元始天尊の弟子から はれて仙人となった12人をそのまま「十二仙」と呼ぶ。

その内の1人 太乙真人が住まうのは、平たい正方形の岩が連なる 幹元山。


昼寝場所であるハンモック近くに降り立つが 誰もおらず、奥の金光洞へ。



『太乙様〜、いるー? 太乙様〜』



入口は暗く、中の様子を窺うが 反応も音も無し。



『…太乙〜…』



ぼそっ…と小声で、呼び捨てする。

元始天尊と話していた時もそうだが、敬称がたまに外れるらしい。



「ちょっと様が付いてないよ焚播龍美!」


『あ、いた』



すると彼女の背後から、男の声。

振り向くと目的の人物、黒髪の顔は良い方 太乙真人が立っていた。

どうやら少し席を外していたようで。



『別にいいじゃーん、昔は呼び捨てだったんだし』


「200年くらい前ね、きみがこーんなにちっちゃかった頃の話ね!

 一応私にも、十二仙としての威厳が…」


『あ、これじっ様からメンテナンス頼まれたやつー』


「聞いてないし…」



自分の膝くらいだったというジェスチャーをするが、

聞く耳持たずの焚播龍美は、腰から 打神鞭〔だしんべん〕を外して渡す。

ホロリと涙を流しながらも、宝貝【好きなもの】には逆らえず すぐ受け取った。



「ゴホン、どれどれ…お、これが太公望に託すっていってた 打神鞭〔だしんべん〕かー」


『へ、師叔【スース】に?』



伸ばして色んな角度から観察するさまは、正に研究者。

彼は十二仙で1番弱いが、宝貝【パオペエ】技術に関しては誰にも負けない。

任せておけば大丈夫といった爺の言葉は、信頼たる故である。


話は戻して、2人の口から出た「太公望 師叔」

元始天尊が1番弟子であるため 十二仙と同格であり、彼等の弟子からの尊称が 師叔【スース】。

焚播龍美は誰かの弟子ではないのだが、“身近な人”がそう呼んでいるので定着したそう。



「うん、近々超重要 計画【プロジェクト】を任せるらしいよ。確か…【封神計画】だったかな」


『師叔【スース】が…ふーん…』


「にしても、うーん…早速バラしたいけど、流石に怒られるよね」


『そりゃそうでしょ。まぁ太乙様は 宝貝【パオペエ】に関して“だけ”は信頼あるけどね』


「トゲが身に染みる…」



容赦ない本当のことが心に刺さった太乙。

さっきから流れっぱなしである。



『それで、じっ様に太乙様も手伝い探してるって聞いたんだけど?』


「え、手伝ってくれるのかい?」


『メンテナンス終わるまで暇だし…構わないわよ』


「助かるよー! そういうちゃんと優しいところ可愛いんだから〜!!」


『はいはい、ありがとうー…』



洞府の中へと入り、歩きながら話す。

途中 せっかくのお褒めも、棒読みであしらった。


どうでもいいという訳ではなく、照れ隠しの割合いが高い。

その証拠に ちょっぴり頬が赤かったりする。



「さてと、話を戻すと…私が頼みたいのは これを道徳の所へ持ってってほしいんだ」



着いた部屋には、真ん中に寝台と ピンセット等が置かれたテーブル。

壁際の棚には 試作品の 宝貝【パオペエ】だろうか、様々な武器が。


その内のひとつ 黒い筒を取り、彼女の掌へ乗せた。



『…ほんっと貴方ら猫の手も無いのね…しかもまた 宝貝【パオペエ】…』


「これは 彼の弟子に渡す予定のものだそうだよ。莫耶の宝剣〔ばくやのほうけん〕といって、光の刃で斬れるんだ」


『ふーん…これもメンテナンスしてたってわけ?』


「そうそう、元々道徳が使ってたしね。

 終わったらすぐ届けてくれって言われてたんだけど、私も忙しいから…」



今持っている部分は、剣の柄にあたるそうだ。

タライ回しの如く用件を頼まれるが、これ以上文句は言わないことにする。


さっきと同じように、莫耶の宝剣〔ばくやのほうけん〕も 円環に引っ掛けた。



『おっけー。打神鞭〔だしんべん〕はまた取りに来るわ!』


「明日には終わらせるから、よろしくね!」


『はーい』



手を振ってから踵を返し、再び外に出て 空に上がる。

バサバサと一旦止まり、方向を確認してから進んだ。



『(そういえば、道徳様の弟子って見た事ないな…どんな子だろ)』



ふと、太乙が言っていたことを思い出す。

そこから関連して、清虚道徳真君を浮かべるが 彼の背後に【スポーツ】の文字は強制表示された。


もしや弟子まであんなに熱苦しいのではないだろうか。

あまりそういう者は好まない方の焚播龍美。

仙人としては尊敬しているが。



‘…見つけた’



苦笑いでため息が出る彼女。


だからこそ、自分を遠くから見つめる誰かの存在に 気付かなかった。



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