-孤独の戦士-

□code.7【数撃ちゃ当たる:後編】
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慣れた道順を2人で歩きながら、でこぼこの会話をしていると あっという間に到着。



「『ただいま〜』」



彼女にとっては第2の家。

今更遠慮するところでもないので、帰宅の言葉を。



「おかえり〜…って、あ! アユちゃん!!」


『よっ。昨日の今日だが、ご飯食べに来た』


「大歓迎だよ〜! こなみが暴れちゃって大変だったからさー!」


『じんに聞いた。なんかすまんな』


「アユちゃんはなんにも悪くないよ〜! 元はといえば迅さんの所為だし!」


「おーい宇佐美、おれ目の前にいるぞ〜…?」



宇佐美が出迎えてくれて、顔合わせは数週間ぶり。

本人を目の前にしての嫌味も言える仲。


土足OKの支部の玄関から、リビングに続く階段を上がる。



「おかえり迅、アユ」


「ただいま〜、レイジさん」


『ただいま』



ドアを開けると目に入った、皿を机に並べていたレイジ。

特に驚くでもなく迎えてくれるのは、彼女が来る事自体何もおかしくないから。



「あーアユ、帰ったのね! また何も聞いてないんだけど!!」


「…小南先輩、カレー焦げますよ」



キッチンで鍋をかき混ぜている桐絵と、隣で手伝いの烏丸。

仮峰に一礼する所は相変わらず。

今日がカレーということは、小南が当番だったらしい。



「アユ、ひさしぶりだな」


『ただいま、ようたろう。らいじんまるも』


「おかえり、ごはんたっぷりたべていけよ」


『あぁ、ありがとう』



大きく育ったカピバラ 雷神丸に乗る子供 陽太郎。

前にも言ったが、性格に難有り。

何故そんなに偉そうなんだというツッコミを入れると面倒と感じた彼女は、敢えて指摘せず 頭を撫でた。



「ボス、もうすぐ帰るから先食べといてってさ」


「ラジャッ。さっアユちゃん、どうぞどうぞ」


『私も何か手伝うぞ?』



スマホを確認してから、迅曰くの知らせ。

支部長のLINEが届いたらしい。


椅子へ促す栞に振り向き、手伝いの意思を示すが…



「もう出来るから あんたは座ってなさい! 今日1日、ずっと動いてたって聞いたわよ?」


「しっかり食べて、しっかり寝ろ」


「っす」



桐絵、レイジ、京介に揃いも揃って大丈夫と言われる。

邪魔という意味ではなく、皆【みな】の優しさで。

少し驚きでぱちぱちと見開くが、自然と口角が上がった。



『…フッ、そうだな…じゃあお言葉に甘えるとするよ』



見ていた彼等も笑みを浮かべる。

微笑ましいし、楽しいから。

絆が深いという証明。


その後 小南特製のカレーをメインに、食卓を囲む。

いつもの場所 いつものメンバーではあるが、鮎にとっては久しぶり。


朝も昼も抜いていたので お代わりしてたっぷり食べ終わったところ。



[ピリリリリリ! ピリリリリリ!]


『…! すまん、食事中に』


「いいよ〜、気にしないで」



ズボンのポケットから着信音。

隣の宇佐美に断って画面を見ると、誰かからの電話で。


表示されていた名前は「雨取 千佳」



『…悪い、ちょっと出てくる』



周りも知っている者ならば この場で出ても良かったのだろうが、彼女はそうではない。

立ち上がり 廊下からの1枚扉を出て、近くの壁に寄りかかってから 通話ボタンを押した。



『もしもし、仮峰だ。どうした? ちか』


〈アユちゃん、夜にごめんね。今、大丈夫…?〉


『あぁ、構わないぞ』



昨日電話で話したぶりだった少女。

何かあった風でもないし、どうかしたのかと思い 次を待つ。



〈えっと、さっき修くんから 明日会わないかって誘われたんだけど…アユちゃんもどうかなって〉


『ん? 誘われたのはお前だけじゃないのか?』


〈修くんが、アユちゃんにも予定聞いておいてくれって…僕からより私からの方がいいだろうって…〉


『変な所で気を遣う奴だな…まぁいいが』



三雲は正義感の強い所もあり、それが逆に心配の種。

本人とは御無沙汰だが 今日も顔は見たし、なんだか身近に感じる。



『私は特に予定もないから、行けるよ』


〈ほんと?…あ、身体は大丈夫?〉


『あ、あぁ…もう治ったよ。(そうだった…学校休んでたんだった…)』



とまぁそれは置いといて、昨日電話した用件が休みを伝える為だったのをすっかり忘れていた。

少し顔が引き攣りながらも、何とか答える。



〈じゃあ明日、11時くらいに河原で集合なんだけど…〉


『なら家へ迎えに行くよ』


〈ありがとう…! じゃあ、また明日ね〉


『あぁ、おやすみ ちか』


〈おやすみ、アユちゃん〉



通学時の通り道なので、迎えに行くのが既に通例。

今回も口をついて出てしまった。

後悔しているわけではないのだが、電話を切った後にふと気付く。


同時に「修」の名前が出てくるとは思わなかったので、最近の事もあり 頭に浮かんだのは あの白髪少年。



『(……もしかして、あいつ…)』



彼が改まって千佳を呼ぶ理由に、心当たりを感じていた時。



‘お、アユじゃねぇか’



階段の方から、名前を呼ばれる。

聞き慣れた男性の声で、スマホから顔を上げて見ると…



『りんどうさん、おかえりなさい』


「ただいま、アユ。もう晩メシ食べ終わったか?」


『えぇ、ちょっと電話があったので抜けてたんです』



こちらも昨日の通信ぶり 玉狛支部長の林藤。

悠々とした雰囲気は、なんとなく迅に似ている。

そう思いながら、されるがままに撫でられる頭。


キリのいいところで扉を開け、一緒に戻った。



「あ、ボス! アユも遅いわよ!」


「『悪い悪い』」



桐絵の小言に 2人で謝る。

示し合わせた訳でもないのに、タイミングぴったり。


そして 今から食べる林藤以外はごちそうさまで、後片付けも終わり 女子で寛いでいると。



「ところでアユちゃん、今日は泊まってくの?」


『あーそうだな…明日朝用事出来たし、ここからの方が近いから泊まるわ』


「用事? さっきの電話の相手?」


『あぁ、クラスメイトなんだ』



家(部屋)は本部なので、雨取家との距離は 玉狛が近い。

万が一遅刻するのも悪いから、泊まることは決定した。



『ふあぁ……んー…明日も早いし、もう寝るわ…』


「今日ほぼ1日掃討作戦だったからね〜。

 おやすみ、アユちゃん」


「あたしは今日帰るけど、明後日来るから。あんたもまた来なさいよ?」


『ん〜…じゃあな…おやすみ〜…』



気が緩むと、一気にくる脱力感から 眠気が倍増。

途中で約1時間寝たといえど、疲れは取れていない。


眠たいモードに入ると 受け答えが簡素になる仮峰は、後ろ手を振りながらリビングを出た。



「………」



その背中を、見つめる者がいることに気付かずに。



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