-孤独の戦士-

□code.5【似非双子の災厄:後編】
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『…それで 後日2人に会うのは全然構わないんですけど、どうすればいいですか?』



とりあえず 落ち着かせるために嵐山を座らせ、飲み物のお代わりを伺う。

まだ動揺しながらも 貰いたいと言った彼と自分用に、今度は牛乳を温めた。


口直しと就寝前に良い、ホットミルクにしたのである。



「…それ、なんだが…きみとしては“どちら”で会う方が良いだろうか…?」



「あ、ありがとう…」と受け取りながらも、相変わらず 頬はいつもの隊服と同じ色。

湯気の立つコップを啜り、飲み込んだ後 准は一息吐いた。


もう1度向かいに座り込み、円面に息を吹きかけながら 彼女は口を開く。



『…それは 仮峰鮎として会うか、ネアとして会うか…ですよね?』


「あぁ……すまない、こんな事を聞いて」


『…先程から謝り過ぎです、あらしやまさん。


 とにかく、私としては「仮峰鮎」として会いたいと思ってます』


「えっ」



予想外の返事に、思わず声が出た嵐山。



『ん、ネアの方を選ぶって思いました?』


「あ、あぁ…てっきり…」


『まぁ、普通ならそっちでしょうけど…アユとしての方が 気が楽ですし、

 今まで 嘘をついていたようなものですから、正直に話したいですしね』



ほんのり哀しそうな笑みを浮べるアユ。

謝罪したい気持ちと 真実を述べて嫌われないかの不安が混ざり合った結果の表情。

「(優しいんだな…)」と心中で思いながら、彼は敢えて 口には出さない。



「分かった。

 きみの都合もあるだろうし、また連絡させてもらいたい。

 …と、連絡先は規定で教えられないんだったか」


『あぁ、大丈夫ですよ。それも表向きの理由ですから。

 LINEでいいですか?』


「なんだそうなのか…じゃあ頼む!」



お互いスマホを取り出し、緑の画面になる。

表示されるバーコードを読み取り合って、登録完了。


ふと 通知バーの時間をみれば、既に午後10時を過ぎていた。



「おっと、もうこんな時間か…そろそろお暇するよ」


『ほんとですね……本日は、御迷惑をお掛けしました』



さっきとまるで逆。

手は前に 敬意を評したお辞儀だとわかる。



「いや、そんな……とにかく頭は上げてくれ」



今度は嵐山が 彼女の両肩に手を置いて、身体を起こさせた。

その際 翠の瞳が必然的に近くなり、やはり綺麗だ…と思いながらも 一息置く。



「…仮峰さん、ひとつ聞いてもいいか?」


『はい、何でしょうか』



手は離して、自分を見上げるアユを真っ直ぐに。

いつもの輝く彼とは別の、真剣な顔で。



「今日のこと、勿論誰にも話すつもりはない。


 …だが いくら友達の兄だからって…きみは、俺を疑わないのか…?」



顔を合わせてしまった時から、不思議に思っていた。


そもそもの原因がどちらだとかは置いておき、S級はどうあれ A級隊員にすら機密にされている【ネアの正体】

約1年前に 真実を知りたがったある隊長を発端として ひと騒動あったのだが、

その時ですら 模擬戦で見事ねじ伏せ、明かされることは無かった。

既に広報として忙しかった彼の耳にも、騒動の結果は届いていて。

ネアという人間は それほど素性を知られてはいけない存在なのだと、イメージ付けるには充分だった。


なのに 今目の前にいる少女は、隠し立てもせず 質問も全て答えている。

潔い姿勢には素直に感心したが 本当にそれでいいものか、と。


驚きからか、伏し目がちの瞼が少し上がる。

だが すぐに目を細め、口端はほんのり曲がった。


彼女は悩むでもなく、微笑んだのである。



『ふくもさほも…あらしやまさんも、ばらすような人じゃないの、知ってます。

 信用…いえ、信頼してますから』


「…!」



仮峰鮎は、あまり笑わない。

迅や小南達 腐れ縁の友にも、満面までいかないだろう。


しかし、どうやら本人が自覚していなかったのだ。

目上の人間が相手で 頼れる者ならば、自然に笑顔になることを。



「(あ…そうか…俺は…───)」



嵐山は、独りでに自覚した。


自分が抱く彼女への興味が、ただの好奇心ではなくなった事に。



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