-人精の迫 造られた命-
□Episode.1【二色瞳の少女】
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リインとツイルが出会って 早1年。
暇があれば、リインはツイルの家へ訪れていた。
ツイルは彼を『リインにいさま』と呼び、少しずつ笑うようになっていく。
因みにツイルは、族長 ラーシュの弟の娘なので、リインとは実従兄弟同士である。
両親は不慮の事故により、赤子の時 既に亡くなっていると聞いた。
妹と言い張るリインには関係ないが。
「よーし、おさらいだ。
バアエティ ウス ヤイオディ フエヌィディウティン フイーヅ?
{君の好きな食べ物は?}」
『えっと…フエヌィディウティン フイーヅ ウス マーボーカレー!
{すきな食べものは、マーボーカレーです!}』
「うんうん、発音も訳も正解!
ツイルは覚えが早いな」
『そんな…リインにいさまのおしえかたがうまいんですよ、きっと』
「(またそうやって謙遜する…)
…にしても、ツイルはマーボーカレーが好きなのか?」
『あ、はい! マーボーカレー大すきです!』
「(うっ…!)」
どうやらロンダウ語を勉強していたようで。
そしてなんとなく聞いた食べ物の好みで、笑顔になった彼女に何かを撃ち抜かれたとか。
リインの顔は茹でダコみたいだった。
『? リインにいさま??』
「い、いや…なんでもな───
[バンッ!!]
「『!?』」
会話の途中で突如開いた扉。
魔物のいないこの森でドアを開ける人間など、ツイルかリインぐらい。
それ以外なら…
「やはりここにいたか、リイン」
「ち、父上!? 何故ここに…」
彼の名は ラーシュ・ロンダウ。
ロンダウ族の現族長であり、リインの父。
ツイルからみれば、伯父という事になる。
何人かの者を引き連れ、彼等の前に現れた族長の瞳は…恐ろしく冷たかった。
「ずっとどこに抜け出しているかと思えば……“こんな”場所に来ていたとはな」
『!…っ…』
「! ツイル…」
思わず隣にいるリインの背に隠れ、触れた服の裾を掴むツイル。
彼は驚いて振り返ったが、すぐに理由が分かり 目の前の父を見据える。
裾を掴む彼女の手に、優しく触れながら。
「…父上、ツイルをどうするつもりですか」
「どうするもなにも、お前が接触していたとなれば……とる方法は“ひとつ”だ」
「…なんで…なんでなんですか父上!!
ツイルは何もしてないのにっ……」
「……連れていけ」
《《はっ!》》
『…っ、きゃ!』
「ツイル!!」
繋いだ手が引きはがされ、離れていく。
互いに手を伸ばしたけれど、ただ空を切るだけだった。
その後、別々の場所へと連れていかれたという…
*