-神に愛されし者-

□第2夜【魔女の棲む村】
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2人で半数程倒した頃、神田が振り返ってすぐ 後ろに走っていくのを見たシナデ。


次の瞬間、神田はゴズを庇って 胸に斧の一撃を食らったのだ。



『…神田…!!』



シナデは神田の元に走りながら、斧の一撃を食らわせたアクマを破壊した。



『…神田…怪我…!』


「…大丈夫だ……ぐっ…すぐ塞がる…」


『(…なに……心臓が…鼓動が…大きく……止まらないっ…)』



シナデは、胸の辺りが波打っているのを感じる。

それは今迄感じたことが無いもので、戸惑いを隠せなかった。


左手にあるブレスレットの珠の1つが、先程とは違い淡く光る。


〔どうすればいい、どうすれば彼の為になるか〕

感情が無い筈の彼女の心に、人の為に考える力が 今この時だけ 宿った。


そして…決意の籠った瞳で顔を上げる。



『…ゴズさん…神田を…お願いします…』


「え、あ、はい!」


「シナデ!? お前何を!」


『……残りは…私が破壊する…』



ガチャ…と弓を空に向ける。

弦を引くと、矢先に光の玉が現れた。


こちらに向かってくるアクマ全てに照準を合わせ、言葉を 矢を 放つ。



『…千の矢の雨と消えろ…幾千及矢[サウザンド・フレッチェ]…!』



手を放し、玉を通過した瞬間 分散するように大量の矢が出現し、アクマに降り注いだ。


千本の矢に 30体程のアクマなど、敵う筈もなかった。



「…す…凄い…」


「(…シナデ…お前は…───)」



矢の雨が止んで、静けさを取り戻した時、アクマはアンジェラのみとなっていた。

シナデはアンジェラに弓を向ける。



『…後は…あなただけ…』


〈…流石ね、エクソシスト。でも私に敵うかしら?


 それに、お仲間さんもまだ戦うつもりみたいよ?〉


『…え…?……神田…!』



彼女が振り返ると、胸の傷口を押さえながら立っている神田がいた。

シナデは神田に駆け寄り、体を支える。



『…神田…傷…酷くなる…』


「…ハッ、すぐ直るっつっただろ…

 お前ばっかりに…負担かけてたまるか…」


『…神田…』



それを狙ったかのように、アンジェラは笑みを浮かべた。


次の瞬間、体が浮いた感覚に陥る。


気付くとシナデは、真っ白な世界にいた。



『…!…ここ…は…』



すぐにこれは、アンジェラの何かしらの能力だと気付く。

弓を構えて事態に備えるが…何も起きない。



『…?』



キョロキョロと周りを見ても、何も起きる気配がしない。


彼女の場合は、何も起きないのだ。

起きる原因を持っていないから。



『…とにかく…ここから…出ないと…』



弓を真っ直ぐ構え、力を込めて射つ。



〈ぎゃあぁぁっ!!〉



真っ白な世界は破壊され 次に目を開けた時、アンジェラが矢を食らったのか 腹を押さえていた。

隣ではまだ、目を瞑った神田がいる。



『…神田…起きて……神田…!』



揺さぶりながら叫ぶシナデ。


彼は少し顔を歪めながらも、目をゆっくり開けた。



「…シナデ…か?


 …そういう事か……助かった」


『…うん…』


〈何故、バレた…

 狂おしい程望んでいる事を前にして、何故そうもお前達は冷静でいられる!?〉


「お前の能力は相手の記憶を読み、そして相手の願望や執着しているものを夢として見せて 惑わせるものだな」


『…! (…そうか…それで…私は……)』



シナデは自らの記憶が無い為に、真っ白な世界のままだった事に納得した。


神田は言葉を続ける。



「狂おしい程望んでいる事か…


 …お前が読めたのは、俺の望みのほんの表層に過ぎない」



神田が何処か 誰も寄せ付けない目付きになったのを、シナデは隣で見てしまった。



「それに、俺の望みは他人に叶えられるものではない」



神田は地面を蹴って上に跳び、宙で刀を構える。



「六幻【ムゲン】、災厄招来…[界蟲一幻]!」



一振りした剣先から異形の蟲達が現れ、アンジェラを食い破っていく。

アンジェラは痛みに苦しみながら、その場に崩れ落ちる。


ゴズが駆け寄ろうとしたが、彼女はそれを止めた。



〈私は魔女…誰かの優しい手の中で、死んでいくわけにはいかないのよ…〉



最後にそう残して、彼女は爆発し 塵と化して風に乗る。


そして、ダンケルン村での死闘は終わった。

村は無人という名の静寂を取り戻し、永遠の眠りにつく。



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