-陽竜志昇記-

□第1回【崑崙のふんわり仙女:前編】
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「では…始め!!」



審判を道徳真君に任せ、剣を構える。

通り過ぎた風の音が やけに響く静寂で、お互いを見据え。

テールが靡く焚播龍美は、小さく口角を上げた。


両腕を掲げ、勢いよく下げるのが合図。



「先手必勝!!」


『…お』



まず仕掛けてきたのは天化の方。

走って距離を詰め、迎えうつ姿勢の彼女に一直線。



「疾…うぇっ!?」



振りかぶり、重い一撃を食らわせた…と思いきや。

セーバーの先は 地面にめり込んでいる。


一体何処に…と思考を巡らせた直後、頭上に影が。



『よっ…と!』



すぐさま見上げた彼の視界には、回転して逆さ状態のリミ。

いつの間に、というくらいの上空まで跳んでいる。

軽く測って 人間2人分の高さ。

好戦的な瞳で青年を捉え、こちらも両剣を翳す。



『おっりゃあっ!!』


「ぐぅっ…!?」



重力を利用し、落ちる勢いで振り下ろし。

大人げない 男女差を無視した威力で、天化は片膝を着いた。


予想外に汗が頬を伝う、が。



「っ…まだまだぁ!!」


『わあ!?』



負けず嫌いの彼は、気合で押し返す。

弾かれて少し体制を崩す焚播龍美に、追撃を仕掛ける。



「疾っ!!」


『よっ、とっ、はっ!』



しかし一瞬で持ち直し、軽い調子で全て受けていく。

上も 下も 横も あらゆる方向から狙っているのに。

明らか、余裕がある表情のまま。



「(ぐっ…俺っちの剣が、ここまで通らないなんて…!)」



最初から1度も入らない太刀に、どんどん焦りが出てくる。

冷静さが大切だとは分かっているだろうが、負けず嫌いの天化ゆえ。



『…どしたの、こんなもん?』


「くっ…まださ!!」



挑発の意味合いを込め、鍔迫り合いを敢えて受ける。

使い方は簡単だが 慣れていない 宝貝【パオペエ】の影響で息があがってきた彼。



『(やっぱまだ若いなー、焦りと疲れで軌道が見え見え。スジは悪くないんだけど…そろそろかな)』



向かいの様子を伺い、ひっそりと目を細める。

少年の体力などを考えると、限界に近いと感じたから。


一向に進まない押し切りを弾き、天化は宝剣を振り上げた。



「はあぁぁぁっ!!」



これで決める、その願いと覚悟を込めて 跳躍し 勢いよく落とす。

光といえど 剣と剣がぶつかる音が響いた。

獲物を斜めに 両手で柄を握り、彼女は受け止める。



『…ごめんね』



一瞬ともいえる時間、天化の足が地面についた刹那。


焚播龍美の言葉が 最後まで耳に届いたのと同時。


指先に、痛みが走る。



「……え」



痺れる程度だったが、それどころでは無くなった。


何故なら、カランカラン…という音が 彼女の背後から聴こえ。

自然と目で追うと、落ちていたのは 見覚えのある黒い筒。

さっきから自分が掴んでいる 莫耶の宝剣〔ばくやのほうけん〕のハズで。


やっと見た彼の視界には、もぬけの殻の手元。

同じくらいの高さにある、ブーツの爪先。



『これ以上続けると 貴方の身体にもキツいだろうから、とばさせてもらったわ』



弧を描く、紫瞳の仙女の仕業に他ならなかった。



余韻の幕は、まだ下りない。



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