極上彼氏の作り方

□悪魔王子の本音と建前
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何でそんな目で見るの……?

悪魔王子の癖に……。

此れ以上見つめられたら、大泣きしてしまいそうだ。

「早く靴履け。

行くぞ。」

そう言って、都留木先輩はあたしのカバンを持つと玄関に行ってしまう。

ちょっと待ってよ……。

あたし今、先輩の気紛れに付き合える状態じゃないんだってば……。

「ちっ……。

又始まりやがった。

やれやれだ。」

何故か佐伯先輩が、殆ど無意識の内に靴を履いたあたしの腕を掴んで歩き出した。

あぁ、居たんですね……。

でも、佐伯先輩にしては何時もの乱暴さが無い。

あたしがダラダラ歩いてても何も言わない。

何でよ。

調子狂うじゃん……。









湊碼Side



柊二が女神を引っ張って来た。

端から見たら、俺と柊二に捕まって拉致られる図だ。

思わず苦笑して柊二に女神のカバンを押し付けた俺は、女神の手を取って歩き出す。

大人しく俺に手を引かれて歩く女神は、終始俯き加減で無言の継だ。



15分程歩くと、閑静な住宅街に出た。

其の一角に、住居の一階を店舗にしている喫茶店がある。

たまに柊二と来る店だ。

中に入ると、くわえ煙草でサイドバックをポマードで固めたオヤジが、

「いらっしゃい……って、何だお前等か。」


と、さもかったるそうに言った。

「奥、貸して。」

俺がスタッフルームを指差して言うと、オヤジが渋い顔になる。

「盛ってんじゃねぇぞ。

此所はガキの溜まり場じゃねぇ。」

「どう見てもそんなムードじゃないだろ。

空気読めよ。」

「まぁ良い。

バイトが来る迄だぞ。」

「解ってる。」

マスターの許可が出て、俺達は店の奥にあるトイレ横のスタッフルームに入った。

中は畳張りになっていて、昔ながらの卓袱台とテレビが置いてある。

勿論、卓袱台の上には当たり前の様に灰皿。

オヤジもバイトの兄貴も吸うからだ。

柊二辺りには最高の環境だろう。

最も、吸わない俺でも此所は妙に落ち着ける場所の一つだが……。


女神は、俺の隣で俯いた継、時折きつく唇を噛み締めている。

正しく、ダム崩壊寸前といった処か。









女神Side




自分が今何処に居るのかも判らない。

唯、都留木先輩と佐伯先輩が一緒に居る事だけは解っていた。

あ〜あ……。

今朝、河野先輩と約束したばっかだったのになぁ……。

前向きに頑張るって……。

御免なさい、先輩。

あたし、早くも頑張れなくなっちゃいました……。

優しい笑顔で励ましてくれた河野先輩を思い出すと泣けてくる。

其れにしても……。

好きになって貰えるとは思ってなかったけど、あんなに嫌がられてたなんて……。

そんなに嫌なら、今朝だって話し掛けないでくれれば良かったのに……。

と、突然隣に居る王子が、あたしの両肩を掴んで自分の方に向けさせた。

限界迄溜まっていた泪が零れる。

「泣きたきゃ泣いとけ。

そうする事が必要な時もある。

今此所でなら、どんだけ泣いても許してやるから……。」

駄目だ……。

もう限界……。

慰めの言葉までもオレ様な都留木先輩に言われて、遂にあたしは大泣きしてしまった。

色んな気持ちがぐちゃぐちゃになって溢れ出す。

バイバイ、侑隼君……。

御免なさい、河野先輩……。

有難う、都留木先輩……。

王子は、抱き締めたあたしの背中を、時々ポンポンと優しく叩きながら、頭を撫でてくれた。

其のキャラらしからぬ仕草に益々泣けてくる。

反則だよ、馬鹿王子……。









湊碼Side



柊二は、卓袱台の上にティッシュの箱を放り投げて出て行った。

アイツ、あれでいて意外と涙腺弱いからな。

居たたまれなくなったんだろう。

しかし……。

泣かせてやるとは言ったが、ホントによく泣く奴だ。

其れでも、幾等か落ち着いてきたのかやっと顔を上げる。

ティッシュの箱を差し出してやると、しゃくり上げながら豪快に鼻をかんだ。

そして、女神が力無く呟く。

「先輩……。

有難う御座居ました。」

「俺の前で鼻水全開で泣いた女は初めてだ。

派手に鼻かんだ奴も居なかったし。」

「す、済みません。」

「今日だけだからな。」

「はい……。」

「やけに素直じゃん。」

そう言って俺が頭を撫でると、女神の瞳にたちまち泪が溜まってくる。

ヤバい……。

ちょっと待て。

もう泣くなよ。
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