長編書庫

□不機嫌な理由は言えません。
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HRが終わって放課後。
友達と他愛も無い雑談をしていたら、廊下からバタバタと慌しい足音が聞こえてきた。

「せ、先輩っ!佐々木せんぱーいっ!!」

スッパーン!と音を立てて勢い良く開かれた教室の扉。
まだクラスに残っていた生徒も何事かとそちらに視線を向ける。

「バスケ部の一年?なに光莉の知り合い?」

バスケ部のマネージャーをしている事をクラスメートには話していないので、不思議に私と息を切らす二人を見る。

「まあ、一応」

ダッシュして来たのか、ハァハァと息を切らして私の前に立つのはバスケ部1年の降旗くんと福田くんだった。

「先輩…あのっ、直ぐ体育館に…」

「と、止めてくださ…黒…子…」

切れ切れに繋がるから言葉。
取り敢えず、体育館でテツに何かあったのはわかった。

「止めてくれって、いつもの火神くんとのケンカでしょ?放っておけばそのうち日向くんが止めるわよ」

「違います!違うんですってばー!」

「火神相手じゃないんですよ!カントクもお手上げなんです」

「は?リコがお手上げ?」

何じゃそれ…
あのリコがお手上げって、どう言うこと?


とにかく来てください!と、引っ張られるように体育館に来てみれば、珍しくリコが困っている。
正直、リコのこんな姿を見たのは初めてだ。

「どうにかしてくれない?あの二人。練習出来なくて困ってんのよ」

「どうにかって、何で私に言うかな」

「さっきからずっとあのまま。まだ火神くんとケンカの方がマシだわ」

リコの視線の先。
ハーフコート内で睨み合ってるのはテツと…

「何がどうなって日向くんと睨み合ってんの?」

「オレらもよく分からん。気付いたら黒子と日向があんな状態」

コガくんも困ったように頭を掻く。
その隣では水戸部くんがオロオロ。

「二人共、止めろって言っても聞く耳持たないのよ。理由も分からないし。で、光莉を呼んだって訳」

「何で私?」

「そりゃ、お前が一番黒子の事分かるだろうし、日向はお前の彼氏。アレを止めるにはお前が一番適任」

「「「「えぇーっっ!?主将と佐々木先輩って付き合ってたんすかー!」」」」

一年生と、俊とリコ以外の声が重なって響く。あまりの声のデカさに両耳を塞いだ。

けど、それさえ睨み合い中の二人には届いていないらしい。

やれやれ、理由は分からないけどテツは早々キレたりしない。
って事は、テツが切れるようなことが日向くんとの間にあったって事になる。

「コラ!何やってんのよ二人共。練習する時間でしょーが」

「光莉先輩は黙ってて下さい。で、日向先輩はボクと1対1してくれるんですか?」

「だぁから!んなもんやるまでも無く結果出てるだろーか」

「は?1対1?テツと日向くんが?」

思わず目をパチクリしてしまう。
と言うか、無謀すぎてビックリだ。

「…なんつーか無謀すぎだろ」

「てか黒子…日向に1対1ってチャレンジャーだな」

それは少し遠巻きに見ていた一年生も同意見らしい。

「テツ…流石にちょっとそれは無謀。ボール取られて3P打たれたら瞬殺…」

他の皆もうんうん頷く。

「なら火神君と組みます」

「いや、だから…つか、火神入れたら1対1じゃないし」

「イヤだね。オレはやんねーよ」

「佐々木〜、マジでどうにかしてよ。さっきからずっとコレの繰り返しなんだって」

いい加減にしないと、そろそろリコが本気でキレそうで怖い…
よく分からないけど、巻き込まれたくないと切に思ってしまう。

「火神くん」

「なんすか?」

「悪いけどテツと組んで。後リコ、悪いけど審判やって」

「黒子君がそれで納得するなら良いわ。時間勿体無いし。でも2対1で良いの?」

「それじゃ不利でしょ。日向くんとは…私が組む」

「「「「「は!?」」」」」

まあ、その反応は予想済みだけど。

「ボクは構いません。火神君がいますし」

「おい!なんでオレが巻き込まれなきゃならねぇんだよ」

「言ってくれるわね、テツ。なんだか分からないけど、やるからには負けないわよ」

「望むところです。ボクも負けません」


着ていた薄手のカーディガンを脱ぎ、軽くストレッチを始める。
その傍らではコガくん達がオロオロ。

ま、2対2くらいなら大丈夫だろうし。

「佐々木〜、日向がいても…火神と黒子相手にマネージャーのお前は無理なんじゃ…」

マネージャーなんだし無理するな。と心配するコガくんと水戸部くん。
そっか、コガくん達は知らなかったんだっけ…私にバスケ経験がある事。

この中で知ってるのは俊とテツだけか。

「佐々木。組んでくれるのは良いが…お前バスケ経験、体育の授業程度だろ?」

「まあ、多分テツよりはイケるはず」

「ゴールを決められんのは日向先輩だけだ。楽勝じゃねぇか」

聞こえてる。丸聞こえだっての火神くん。別に良いけど。
それ以上に不満そうなのは、日向くんだ。

「あからさまに不満ですって顔されるとイラッときますが?」

「するだろ、当然。相手は黒子と火神だぞ!ウチの主力だぞ」

言い切った!てか、断言した…

「てか、せめて伊月と変わってくれ。例え2対2でもこの二人に負けたくねぇ」

真顔で言い切った日向くんに本気でイラッとくる。
それを見ていた俊が盛大に笑い出す。

「大丈夫だよ日向。これ以上ないパートナだから」

あははって声を上げて笑う俊に何か本当に腹が立ってくる。

「大丈夫か?笑い過ぎて涙目だぞ伊月先輩。何でもいいけど、んじゃ軽く始めよーぜ、です」

「火神くん。本気でやってもらわないと困ります。負けますよ?」

「あ?そりゃねぇだろ、主将は別として、佐々木先輩はマネージャーだぞ」

「光莉先輩は、キセキの世代の専属マネージャーだった人です。それと同時に女バスの主将で、日向先輩と同じSGです」

「「「「「えっ、えぇーっっ!!」」」」」

「強いですよ、普通に。付け加えるなら、多分先輩達よりも強いかもしれません」


数十分後、息を切らす火神くんに睨まれた。

「反則、っすよ光莉先輩!何者だよアンタ…ですか!」

「何者って…普通の女子高生?」

「だから言ったじゃないですか、負けるって。火神君のせいですよ、どうしてくれるんですか」

ギャイギャイと今度火神くんと言い合いを始めたテツは、結局リコにハリセンでシバかれ火神くんと共に外に走りに出された。

「汗かいた…着替えて帰る」

「ちょい待ち!説明してもらうわよ光莉」

「練習するんじゃないの?」

「そんなの後よ。さっき黒子君が言ってた事、本当なのかはっきりさせるのが先よ」

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