長編書庫

□もうずっと君に恋してる。
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『…お前さ、気にし過ぎだろ』

『軽くスルー出来るほど私は大人じゃありません』

『だったら、ウジウジしてないで好きって言えば?』

『…そう来ますか!』


先日の俊との会話をふと思い出す。
何と言うか、私は話し掛ける事すら躊躇うと言うのに、俊は他人事の様に軽く言った。

まあ実際、俊にとっては他人事。
言えるものなら私だってとっくに好きだと言ってる。

けど多分、日向くんは気づいていないんだと思う。

特にリコと話している時、他の人には見せないような優しい表情をしている事を。

リコが好きで堪らないって、見てわかるくらい。
そんな日向くんを見てるのに、私が好きだなんて言えるわけがない。


「やっぱマネージャーなんて、引き受けるんじゃなかったな」

溜め息とともに小さく呟いた言葉は、ボールが床を突く音とバッシュのスキール音、一年生の声出しで掻き消される。

「ボクは光莉先輩が居てくれるの嬉しいですけど」

「有難う。そんな事を言ってくれるのは、テツだけだね〜」

ドリンク下さい。と、手を出すテツに用意していたタオルとドリンクを渡せば、何故かジッと見られる。

「ん?ドリンク薄かった?」

「違います」

「んじゃ何?」

見られると言うより、凝視されていると言ったほうが正しいかも知れない。

「ずっと思ってたんですけど、ボクが話し掛けても光莉先輩って驚かないですよね。それどころか中学時代から一度も忘れられた事がありません」

「忘れられたかったんかい!」

「そうじゃないですけど、ボク忘れられるのか普通と言うか…」

言いながら、テツの頭をベシッと叩けば「痛いです」と抗議の声。

「コラ黒子君!何時まで休んでんの!早く戻らないと練習倍にするわよ」

ニヤリと笑ったリコを見て、テツは慌ててコートに戻っていく。

その背中を見ていたら、不意に視線を感じて、そちらを見れば日向くんと目が合ったけど、それは直ぐに逸らされた。

多分、練習を倍にされたらどーすんだ!とか言いたかったのかもしれない。

リコの練習メニューは、いつも殺人的だから。



ピィーッ!
監督であるリコのホイッスルが体育館に響く。

「よし!今日はここまでにしよっか」

お疲れっしたぁ!
と、みんなの声が反響して、戻って来るみんなにタオルを渡してから私は空になったドリンクボトルを回収する。

「使ったタオルはカゴに入れといてよー」

「佐々木がマネージャーになってくれてマジ良かったよ〜」

ニャンコっぽいコガくんが、タオルを顔に当てスリスリしながら言う姿は…まさにタオルに戯れる猫だ。

「いっつもタオルはふかふかだし、何かちょーイイ匂いするし!ドリンクもオレら個人に合わせて濃さ調整してくれるしさぁ」

本当は、マネージャーなんてやるつもり無かったし、最初は本気で断ってた。
けど、こうして喜ばれるなら少しは役に立っているのかもしれない。

水戸部くんも隣で頷いてるし。

「アンタ達!寄り道しないでさっさと帰りなさいよ?休むことも大事なんだからね」

そんなやり取りをしてると、リコの声。

正直、リコがマネージャーも兼任していた訳で、それで問題なかったんだから改めてマネージャーなんて必要ない気がする…

チラッとリコの方を見れば、やっぱり隣には日向くんがいる。

「わかってるって!寄り道する元気もねーよ」

「そうっすか?俺はまだまだ平気っすけど」

「コラ火神!アンタが一番体休めなくてどうすんのよ」

「そうだぞー、火神がいなきゃ勝てるもんも勝てねーじゃん」

タオルでガシガシ汗を拭きながらコガくんは火神をどつく。

部活終わりにしては、元気なみんなを横目に自分の仕事を始める。
モップ掛けをする一年生を残して、他のみんなは部室へと散って行く。

体育館の鍵閉めの為、一年生のモップ掛けが終わるのをタオルが大量に詰まったカゴを抱えて待つ。

その後、保健室の洗濯機を借りてタオルの洗濯。それが私のいつもの日課だ。

「カゴ、貸せよ。持ってってやるから」

「えっ?」

気が付けば、私が抱えていたカゴは隣に立っている日向くんが抱えている。

「日向くん?」

「何で疑問形なんだよ」

「いや、ちょっとビックリして…てか、悪いから良いよ。練習で疲れてるでしょ」

「…お前、黒子に声掛けられても驚かねぇのに何でオレには驚くんだよ」

別に他意はなくて、何気なく言ったつもりだったのに上から無言で睨まれる。
その間も一年生はモップ掛けを進めていて、日向くんの視線は私からモップ掛けをする一年生に向いてる。

「つーか、黒子は毎回カゴ持ち手伝ってるじゃねぇかよ。なのにオレはダメってか?」

「毎回テツに持って貰ってる訳じゃ無いよ。大体、日向くんはココで暇してる時間無いでしょ?リコ、待ってるんじゃないの?」

「は?何でカントクが出てくんだよ」

「いつも帰り、一緒でしょ?」

日向くんが持つカゴを奪い返して、私は逃げる様に背を向けて歩き出す。

素直にお願いすればいいのに…
相変わらず、私には可愛さの欠片も無い。

部活終わりにリコと明日の練習メニューについて話し合いをしてるのを知ってる。

家が近いらしいって聞いたから、自然に一緒に帰る様になったみたいだけど。


「あの…佐々木先輩」

「ん?何、火神くん」

私の前に立ち、苦笑いを浮かべ頭を掻く火神くんが、恐る恐る私に声を掛けてくる。

不思議に思って火神くんを見上げれば、変な汗をかいてる。

「ちょ、何?どーしたの?変な物拾い食いした?」

「ちげーっすよ。あの…その、なんつーか…後ろっつーか…」

「意味解かんないからハッキリ言って」

「いや、あの…主将、入ってます…多分、間違いなく…クラッチタイム」

「えっ?」

練習は終わったのにクラッチタイム?
振り向けばにこやかな日向とバッチリ目が合う。

「ゲッ!何で…クラッチタイム入ってんの」

思わず一歩後退り。
ヤバイ!と思った時には、ガッチリと腕を捕まれ「ちょっと来い!」と笑顔で引きづられてる…

一年生には「ご無事で!」と見送られた。

(た、助ける気はないんか一年〜っっ!!)

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