短編集

□素敵な
1ページ/1ページ





「靖友」





ベッドでお尻を掻きながら自転車の記事を見てる私の彼氏に声をかける。
付き合って5年。

そろそろ聞きたい言葉があるんだけど。






「ア?」







間の抜けた返事をするコイツはそんな気なんて微塵もないのか。
少し溜息が出る。






「ねー、もしもの話していい?」


「ハァ?それなんか意味でもあンの?」






あるっちゃあるし。
ないっちゃない。

たとえ話だ。







「もしも、私が明日にでも歩けなくなったらどーする?」







その言葉に私の方をやっと向く馬鹿。
少し真剣な顔がドキリとする。







「・・・なんだソレ。どっか悪ィのかヨ」






ふらっと立ち上がった靖友が私の目の前に来て髪の毛を撫でつける。
不機嫌な顔に見えるけど、これは心配しているときの顔。

細いクセに大きな手が頬に触れてくすぐったい。







「何とか言えよ」








その手が両頬を潰すように掴まれてアヒル口になった唇にキスが降る。
心臓が縮こまる。



ずるい奴。







「悪くないよ。健康体」


「んダヨ。心配して損した」


「いいから答えてよ。もし歩けなくなったらどーする?別れる?」







もしだ。
そんなこと今のとこないけど、もしそんなことがあったら私はきっと何も聞けない。
こんなにも好きなコイツを離してなんかやれない。

だからこそ聞いておきたかった。







何かを考えるような仕草をした靖友はじっと私の目見た。







「仕方ねーから介護してやンよ」



「・・・え?」



「お前が歩けねェーなら俺が動きゃーあいい話だろ」






その言葉に私はビックリした。
まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかった。

好きとも愛してるとも言わないこの男が。






「俺はお前がいればそれでいい。動けねぇー方が好都合だナ」



「ちょっと病んでるんだけど、その発言」



「ウッセ。…あー…なんつーか。なんか不安とかあんのか知らねェけど」












【死ぬまで面倒みるつもりだヨ】











真っ赤になって視線をそらしたこの愛すべき馬鹿に私はどこまでもついていける。
そう心から思った。








「プロポーズのつもり、ソレ」


「わッ、悪ィかよッ!!」



「そんなんじゃ私は頷かないぞー私はムードを大切にしてほしい」



「んなもん初めからねーだろォが」



「作ってよ」






.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ