ウォーターリリーの涙のワケ
□媚びない正義
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人生には何度か息を止めて気配を消していなければいけない時が何度かあると思う。
例えば、今の私の状況下がまさにそれに当てはまる。
さて、どうしたものか。
放課後、掃除当番に当たっていた私はゴミ捨てという罰ゲームに見事じゃんけんで負けて勝ち取った。
なんてついてない日なんだろう。
まぁ、そうは言ってもなってしまったものは早々に片付けなければいけない。
うっかりしていた私は今日はみんな基礎メニューからではなく、すぐに山へ行ってしまうことを失念していたからだ。
ドリンク早く作んなきゃ・・・!
こういうときは本当にいろいろな不幸が付きまとうというか。
そういうことがいっぺんに襲い掛かってくるのは一種の試練かとも思ってしまう。
神様も毎日一回とかいう融通システムに変えてくれればいいのに。
二段飛ばしで階段をすいすい降りて、ゴミ捨て場に向かう。
ゴミ捨て場に行くには中庭を通らなきゃいけないのだけれど、私は密かに近道を見つけていた。
ここ穴場なんだよねー。
スタスタと誰もいないであろう道を歩いていると微かに聞こえた女の子の声にビクリと肩を揺らした。
「(え・・・?)」
こんな時間にお化けとか非科学的なことはないよね?
・・・ないよね!?
バクバクいい始めた心臓はどうしたらいいの!
やだやだやだ
私は何も聞こえないー
何も聞こえないよー
自己暗示をかけるように止まった足を動かせば声はどんどんハッキリと聞こえてくる。
ちょっと待って。
これは本当に誰かいるんじゃないだろうか。
砂利で足音がならないように細心の注意を払いながらその声のする方に私は何故かつられるかのように距離を縮めた。
「(女の子・・・・と、新開くん)」
まさかの展開だ。
だからどうしてこういうついてない日はとことんついていないのだろう。
どんな試練なんなのコレ。
そこには顔を赤くてどう見ても告白を始めるよ、という雰囲気を纏った子とそれに気づきながらも飄々としている新開くんの姿があった。
動けばばれてしまうかもしれない。
仕方ない、終わるまで静かに待機しよう。
人の告白とか盗み聞きする趣味は全くないからね。
てか新開くんにばれたらそれをネタにまた教科書貸してとかせびられそうだし。
「あ、あのっ」
女の子の可愛い声が聞こえる。
緊張がこっちまで伝わってくるようで、私も何故か必然的に息が詰まる。
思い出すのはあの時のことだ。
【はじめ、ちゃん】
心臓がバクバクと言って顔を上げられなくて。
何が何だかわからなくて涙が出た。
たった一言いうのに一生分の勇気を使ったような気がした。
そこまでして彼女になれたのに。
自嘲的な溜息が溢れた。
それと同時に襲う鋭い痛みに胸が張り裂けそうだった。
「あの、新開くんのことが好きです…っ」
【はじめちゃんが好きなの…っ】
どうして上手くいかないんだろう。
なんでこんなにも好きで仕方ない人を自分から手放すように仕向けるんだ、神様は。
「ごめんな。今は部活に専念したいんだ。気持ちは嬉しいよ、ありがとな」
新開くんの声でトリップしていた脳が少しずつ現実で動き出す。
考えてもどうしようもない、か。
泣きそうな顔で聞いてくれてありがとうと身の引き方まで可愛い女の子はパタパタと走り去ってしまった。
「(さて、私もゴミ捨て場に…)」
「盗み聞きは泥棒の始まりだぜ」
「…ワープ?」
さっきまで少し離れたところにいたはずなのに、なぜ目の前に新開くんはいるのか。
直線鬼にしても早すぎやしないかい?新開くん。
しかもすごいいい笑顔。
「これで一週間は教科書借り放題だな」
「あのね、泥棒の始まりは嘘だし。そもそも私は故意的に聞いたわけじゃないの」
「いや気にしなくていいんだ。俺はただ教科書をすんなり貸してもらえるような口実が欲しかっただけだしな」
「本音ぶちまけやがった」
あぁ、ついてない。
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