ウォーターリリーの涙のワケ

□足元に転がった陽だまり
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春。
冬の終わりを告げる暖かい風が吹けば、桜がひらひらと舞った。




ここは箱根学園、自動車競技部。






「(すごい人だかりだなぁ、これ)」






むさ苦しい男子高校生となった彼らに混ざってマネージャー希望の私は部室へと来ていた。
他にも流石王者と言われるだけのことはある。
私以外にもマネージャー希望はそれなりにいるようだ。




北川第一のバレー部は私以外マネージャーなんて入ってこなかったのにな。
うちだって結構有名だったはずなのにこの差はなんなんだが。





ふっと思い出した光景に口角が上がって、そして最後には下がった。






あの体育館のシューズが擦れる音が恋しい。






胸がぎゅっと苦しくなった。
もう今更どうしようもないのに。

決めたのは私だ。






もうバレーとは関わらない。







そう決意して出てきたんじゃないか。








苦しさでいっぱいになろうとする頭を横に振って現実に舞い戻った。







さて、入部届を出さなくちゃいけないんだけど。
どうみても無理だよね。






この人ごみをかき分けていくにはそれなりの度胸と勇気がないと難しい。
どこを見てもむさ苦しい野性味あふれる男子が多くて困る。

明日出すんじゃダメかな・・・。




周りを見て断念しようとしたときだった。






「君、マネージャー志望?」






後ろを振り向けばそこに立っていたのはまだ幼さが若干残りつつも、周りを取り囲んでいる男子とは違う雰囲気を纏う二人の男子がいた。
一人は大きなたれ目が特徴で、分厚い唇にはパワーバーが咥えられている。
もう一人は野性味はないものの強い目をしていて、芯が強いのがよくわかるような男の子だった。


同じ一年生なのかな?






「俺たちもまだ入部届出してないんだよ、それ入部届だろ?一緒に出しにいかないか?」








思ってもなかった誘いにびっくりした。
だけど、それは願ってもない申し出だった。






「いいの?私この人の多さに少し戸惑ってて明日にしようかなって思ってたとこなの」






優しく微笑んでくれたことを肯定と取る。







「私、佐々木乃彩!これからよろしくね!」



「俺は新開隼人よろしくな。でこっちが」


「福富寿一だ。よろしく頼む」






私たちは自己紹介と雑談を交えながら入部届を出しに行くことになった。
ブーブーとなり続けるケータイの音は聞こえない振りをした。





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