st.dream...

□それでいつの間にか眠ってしまって
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友情?/ハウスメイドヒロイン











「おかえりなさいませ、お嬢様」


ぴしりと決められたマニュアル通りの綺麗なお辞儀と挨拶。この青山家のハウスメイドであるなまえは丁寧なお辞儀の末に僕の鞄を預かって、ゆったりと僕の後ろをついてくる。
絶対に斜め後ろをついてくるあたりが、完璧なハウスメイドならではのことなのだろうけどそんなことには興味はないんだ。

自室の前までつくと、今までぴったり斜め後ろについてきていたなまえは、初めて僕よりも前に出る。「お嬢様、どうぞ」と言って開かれた扉をあっさりと潜ってしまえば控えめに「失礼します」といいながら彼女も続く。


「ただいまー」

「翔ちゃん。お行儀が悪いですよー」

「いいじゃん。疲れてんだから」

「もう…」


ソファにどかりと座りこんで背もたれに身体を全て預け、だらーんと仰向けになる。
鞄から携帯を取り出して充電器に差してくれたり、鞄を定位置に置いてくれたり、着替えをまとめて取り出してくれたりするなまえとは、幼少期からの付き合いだ。一応、僕の方が年下だけれど、昔から彼女はこの家に勤め始めていて年も近いと僕が喜ぶだろうと気を聞かせた父さんや母さんのおかげで今では僕専属みたいななまえ。
2人きりで僕の部屋にいるときだけ僕もこんなにだらしない態度を取るし、彼女も砕けた口調で話してくれる。

僕がいつもあんな格好してるのもこの家で彼女だけは知っている。
あの洋服類の管理は彼女の手の内だし、朝準備して夜に片付けてくれるのも彼女。



「翔ちゃん、また髪伸びたね」

「そーかな?普段はしまいっぱなしだから解んないや」

「伸びたよー。ちょっと前はここまでだったもん」

「じゃあ次の休みにでも切ってよ」

「しょうがないなぁ」


秩序恐怖症の僕が美容院みたいに清潔なところを嫌うこともわかっているのはなまえだけ。
使用人に髪切ってもらうのも、本当は良くないことみたい。だから表立って切れるように彼女は理容室の資格もとってくれてる。だからこうして大っぴらに彼女に頼むことができる。
彼女が資格を取るまでもコソコソ切ってもらってたんだけどさ。

両親にはちゃーんといい娘で通ってるし、 なまえだってハウスメイドとしてちゃーんとやってることになってる。
これは、僕ら二人だけの秘密だから。



「また、お話きかせて?」

「そうだなぁ、今日はねー」


メイドとして中学を卒業してからは買い物やそれこそ美容院とかしか出掛けることがないからか、こうして僕の部屋でいつも今日あったことや僕がしたことなんかをたくさんたくさん聞きたいと目を輝かせる。
僕も、彼女も窮屈なほど狭い世界で生きているんだろう。翠さんだったら卒倒ものだろうけどね。

でも、姉のような、親友のような。
どちらもいたことないから感覚なんてわかんないけど……
それだけ大事な彼女をこんな僕が笑わせてあげられるのなら、と今日も職場のくだらないつまらない話を延々と繰り広げてあげるよ。












それでいつの間にか眠ってしまって、目が覚めたら満面の笑みでおはようって言われたらいい。
(とにかく傍にいるだけで)



僕が彼女を大事に思うように、彼女も僕を大事に思ってくれているなんて僕が気付く日はいつかくるだろうか。
とりあえず今は、STの話しをする時だけ豊かになる僕の表情や声色を楽しみにいつも彼女は話を聞いてくれてるなんて知らないまま夜は更けていく。





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