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□不意に視線が絡まったのは、きっと、偶然
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捜査一課新人ヒロイン/筒井とコンビ設定










筒井先輩は、言っていた。
『警察官なんてやってると恋する暇もないわよ』なんてため息をつきながら。どうやらお母様から結婚を催促されるようです。

私はどうしても警察官になりたかったから警察官になっただけ。恋をするために警察官になったわけじゃない。
でもやっぱり優しい人と出会って、たまの非番にはデートして、疲れてたらおうちでのんびりして、何年か付き合った先に結婚。穏やかな新婚生活も満喫したあとに子供に恵まれて、可愛い可愛いと愛情をたっぷり注いで、その子が大きくなって自立したら、ほどほどに仕事も辞めてまた素敵なよぼよぼになってしまった旦那さんとゆっくりお茶を飲みながら毎日を過ごす未来を描いていた私は少なからずショックを受けた。

筒井先輩みたいに素敵な人も相手が見つからないのなら、私なんてもう無理だと肩を落としたのは数日前の飲み会での話。そんな新入りの私に捜査一課のみなさんは優しくおつまみを沢山くれた。




でもそんなことを言ってる場合じゃあない。
今はお仕事に集中しなくちゃいけないんです。

筒井先輩に連れられてやって来たのは現場。現場に出るのは初めてだ。車を降りて、被疑者の容態や身元なんかを沢山沢山メモしていく。やっぱり覚えることはまだまだ沢山ありそうだ。


「…頭を打ってるってことは撲殺かしら」

「なるほど」

鑑識さんの「後頭部に強く殴られたあとがあるようです」なんていう情報に筒井先輩が呟いた。私は、なるほどなるほど、と言いながらそれをまたもお気に入りのメモ帳に書き加えようとしたとき。



「愚か者」

「…え?」


す、と奪われてしまったメモ帳。目の前に立つその前の犯人を見るとどうやらストライプのシャツにグレーのジャケットを羽織った可愛い顔の男の人。私が驚きで目を丸くしていたからなのか、その人は隣の筒井先輩に「この間抜け面の新入り後輩に嘘を教えるな。そんなんじゃ出世には程遠いな、ローンの返済は怠るな」なんて良く分からないことを一気にまくし立ててメモ帳を奪いあげてしまう。あぁ、私のお気に入りの怪獣さんのメモ帳が。

そんな嘆いてる間にも、男の人は被害者の横にしゃがみこんで手袋をして様子を伺いながら、顔色がどうだとか、指先の変色がどうだとか、匂いがどうだとか、黒目だか白目だかとか訳のわからないことを沢山言って説明していく。
ついていけないし、メモも取れない。混乱していると、最後には立ち上がって私達捜査一課に向かってはっきりと告げた。


「よってこれは毒殺だ。なんでこんなことも解らない。あぁ本物の馬鹿だな!馬鹿の集まりめ!この、愚か者が」



つ、筒井先輩。あの人、は……?。小声でくいっと隣の先輩の袖を引くと、むっとした顔だった筒井先輩が私に説明してくれる。

「なまえも名前くらいは聞いたことあると思うけど、あれがSTの赤城左門よ」


「あかぎ、さもんさん……」


ST。天才集団さんだとか、問題児集団さんだとか、いろいろ噂は聞いていたけど。その赤城左門さんが、あの人。
ぱたぱたと今さっき走ってきた男の人に「また勝手に!」やら「今度は何言ったんですか!」なんて言われているけど、私はそんな様子をぼんやりと伺っていて、隣で「本っ当に最低な奴だから気をつけてね!」なんて言う先輩の言葉なんて耳に入らず、逆に私が言葉を紡いだ。



「先輩、間違ってますよ……」

「え?」

「……警察官でも、恋、できるじゃないですか」

「は?え?ちょっとなまえ??」




私、みょうじなまえは、STの赤城左門さんに、たった今、恋しました。

その言葉を小さくだけど告げた時、私が今まで眺めていた彼と視線が交わって。でも直ぐに逸らされてしまった。
その事が頭をいっぱい占めてしまって、筒井先輩が隣で口をぱくぱくさせていることとか全然これっぽっちも気付けなかった。




不意に視線が絡まったのは、きっと、偶然
(でも、恋に落ちたのは──)



ちゃんと自己紹介して、私のガッキーくんのメモ帳を返してもらおう。
その時に推理についてもたくさん教えてもらって、彼についてもたくさんおしえてもらおう。
そうだよ、そうしよう。

私の仕事も恋も、まだ始まったばかり。

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