飼育員系女子

□幸福論とにらめっこ
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世間を騒がせたモモタロウ事件とやらが解決したのは知っていて、ちょうどその夜鈴菜からメッセージアプリのグループトークで、赤城左門と付き合うことになった、と連絡が来た。
なんやかんやとお互い両思いっぽいのは話を聞いていて分かっていたけれど、鈴菜がかわすか、鈴菜が折れるかどっちかの選択肢だろうな、と相談を受けながらいつも考えていた。






「それにしても本当に付き合うとはねぇ…」


「あはは、お騒がせしましたー」

「いーじゃん!結果オーライ!なんだっけ?しゅうゆうのび?」

「有終の美、ね」



私のなんともない呟きに鈴菜はくすくすと肩を揺らす。少しだけ雰囲気が柔らかくなった気もする。いや、もともとこの子はふわふわしてたわ。
がこん、と音を立てて落ちてきたジュースを自販機から3つすくい上げた桜が私と鈴菜にひとつずつ渡してタブを開けてから全員でコツン、とあてがった。




「じゃあ鈴菜の身が開放されたことと、恋がかなったことを祝って!」


かんぱーい、と気合十分の桜や間延びした鈴菜と同じようにやる気なく「かんぱーい」と言う。
全員で少しだけ缶を傾けてジュースを飲むと喉の奥に抜ける糖分が少しだけ意識をはっきりさせてくれた。




鈴菜が事件に巻き込まれていたことを知ったのも、その赤城左門と付き合うって聞いた時に流れで聞いたものだ。
誘拐なんてされたようには見えないほど、私の隣でケラケラ笑う鈴菜。
桜が呑気に公園の遊具で信じられないほどの身体能力を見せているのを適当に視界の端に留める。




「ハル?」


どうかした?とベンチの隣に座った鈴菜が問いかけてくるほど考え込んでしまっていたらしい。
私はさらりとこないだ染め直した金髪を耳にかけながら背もたれに寄りかかった。



「私もいい男欲しいわー」

「あれ?こないだの合コンの人は?」

「肉食かと思ったら肉巻きアスパラガスだった。マジありえない」

「えー、いい人そうだったのにな」

「いい人すぎるからダメだったの」

「そういうもんかね」

「そういうもんだよ」




そっか、と言いながらくすくすと肩を揺らす鈴菜は缶ジュースを両手で持ってそっと口元で傾けた。その仕草はまさに女の子って感じ。
桜は相変わらず脳筋だから、私たちがこうして座っている間にも公園の遊具で謎の技を披露している。恥ずかしいからやめて欲しい。








「あれ?左門さん?」



こてり、と小首をかしげながら鈴菜が目を向けたのは公園の入口で停められた一台の車。
それから降りてきた二人のうち片方の男は不機嫌そうに片目を歪めた。






それが、私と赤城左門のファーストコンタクトだった。








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