飼育員系女子
□小指はいつまでも繋げたまま
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(百合根side)
何なんだ……この事態は一体……
僕の目の前に広がるのは今朝方立ち上がった、赤城さんを捕獲する為の捜査本部で警察の皆さんに華麗に指示を出すSTの面々。
山吹さんも黒崎さんも翠さんも、今までの腫れ物扱いされていたのが嘘のように皆さんから賞賛の拍手を頂いていた。
なんで、みんなして赤城さんを犯人に仕立てあげるんだよ……!
「なーに?キャップ」
僕が何も言えずにその場に立ち尽くしていると無秩序に散らかされた一角でくるりくるりと回転椅子を回していた青山さんが僕の方へと声をかけた。
彼女も、赤城さんが本当にやったなんて思っているんだろうか。
赤城さんが犯罪なんてするわけないし、だけどSTのメンバーが真実に気づかないなんて有り得ない。どうなっているのか、僕にもてんでわからない。
「どうして赤城さんを信じてあげないんですか」
「恋心だよ」
「……え、?」
『恋心』?
それってつまり青山さんが、赤城さんに…?っていうか。
いや、その。そりゃあこんな格好してたって青山さんは女の子だし。確かに赤城さんはあんなんだけど顔だけはまぁ悪くないっていうか。その。いやでも!!
「あれー?知らなかった?」
「知らなかったですよ!上司としては職場恋愛はその、あんまり……でも僕自身は青山さんの気持ちを否定するつもりはなくて、でも、その…赤城さんには鷹宮さんが………」
「なんでわかんないかなぁ!おちょくったんだよ!」
青山さんは、じとり、と僕を睨めつけると地図をばさりばさりと散らかしながら「逃げられたら追いたくなるのは人間の性。それがまるで恋心のようだって言いたかったの!」と少しだけ言葉尻強めに放った。
……そんなの、わかるわけないって。
常におちょくられているからもう何がなんだかわからなかった。
「ていうか鈴菜の趣味疑うくらいには赤城さんに興味なんてこれっぽっちもないよ」
「それもそれで酷いですけど…」
「……ん?」
「え?」
「そうだよ!!鈴菜!!」
え?鷹宮さんがどうしたんですか?
と僕の疑問が言葉になる前に青山さんは携帯電話を取り出して、それを耳に当て……って!
「もしかして鷹宮さんに電話する気ですか!?」
「え?うん。ダメなの?」
「鷹宮さんは、その」
昨日、彼女も。
赤城さんの無実を信じてはくれなかった。赤城さんの言葉のまま、その推理のままじゃないだろうか、と残酷にも言い放ったのだ。
STのメンバーが赤城さんを信じてあげないことにも僕は戸惑いを隠せないのに、鷹宮さんにまで同じような態度を取られて正直僕の心はボロボロだった。
「鷹宮さんの愛情って、そんなもんなんですか」と昨日最後に言い放った言葉に一瞬だけ鷹宮さんが傷付いたような表情を見せたのが、ほんの少しだけ引っかかっていた。
「でも赤城さん、昨日脱走したんでしょ?」
朝になるまでぶらぶらしてたとは思えないから、一度家に帰ってると思うけどな。
青山さんのその衝撃発言に僕ははっと気付いて胸ポケットから携帯を取り出した。
「あ!もしもし!鷹宮さんですか!?」
数回のコール音の後に『はいはーい』と間延びしたのんきな声が聞こえて僕は食い気味に「赤城さんが昨日帰りませんでしたか!?」と尋ねた。
昨日あれだけ言ってしまった気まずさもないわけじゃないし、ちょっとだけ心苦しさもあるけど、それどころじゃなかった。
『あぁ、左門さんなら昨日のうーん、2時前?くらいに帰ってきたかなぁ』
「な、なんですって…?」
『それで、朝一番でまた出てっちゃったけど…あれ?もしもし?キャップさーん?』
「鈴菜ー。キャップは色々とショートしちゃってるよー」
『あれ?青山さんも一緒なんですか?』
混乱する僕の手の中から携帯をひょいと奪ってハンズフリーにして、それを机の上に置いた青山さんは地図を広げながら鈴菜さんに「赤城さんが逃走ルートを予測できないように逃げ回るんだけど…どうにかなんないかなぁ、これ!」なんて話している。
『えー』なんて呑気な鷹宮さんの声にまたも混乱だ。
え?ちょっと待って?そんなすんなり?
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