飼育員系女子

□背中合わせホリデー
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なんだかんだ言っても、一般人の私には立ち入り辛い場所。警視庁。
訳わからないけど色々な部署とかあって、そのせいでこんなに広いんだろうな…と受付に向かいながら携帯片手に歩いていた。

モモタロウ事件も幕を閉じ、ネット上で「警察なんて最低だ」と叩いていた人達も、その最低な警察が犯人たちを追い詰めてしまったことで「犯罪は犯罪だよな」と口々に唱えている。
ホント、都合いいんだから。




「鈴菜ちゃん!お待たせ!」

「あ、筒井さん」


少し小走りに向かってきてくれたのは、グレーのスーツに身を包んだおかっぱの筒井さんだ。

モモタロウ事件のその後。筒井さんから改めて連絡を受けて、事件のことについて話してもらえないか、と頼まれたのだ。一応、任意らしいけれど。
調査書だか報告書だかをまとめるのにそういうのも必要らしく、本当なら事件当日に署までご同行ってやつをするみたいだけど、あの時は犯人たちが多くそれに時間がかかってしまうことや、時間が遅かったことで未成年の私は返してもらえたということらしい。

もう少ししたら夏休みも終わりを迎えようとしているので、その前に都合をつけてほしい。との事なので快くバイトのない日を伝えたのだ。





「事後調査って言っても、事件の流れとかを整理するために話を聞くだけだから心配しなくても大丈夫よ」


「なんだかドキドキしちゃいますね。取り調べ室入るの初めてだし」


「…そうね(相変わらず変わってるわ、この子)」



楽しそうに鼻歌交じりに筒井さんの後を付いていく私に、隣の彼女はなんとも言えない表情で笑っていた。
厳つい人たちの行き交う廊下を歩いてたどり着いたのは、思ったよりも小奇麗な部屋で。




「池田管理官が取り調べをなさるんですか」

「あぁ、上からの指示だ」



机とライトと椅子しかないけれど、ドラマとかで見る怖い不気味な雰囲気じゃなく、手入れも行き届いたシンプルで殺風景なだけの部屋だった。
その机の片側の椅子に、眼鏡をかけたいかにもエリートっぽい男の人が座っていて、彼は“池田管理官”と言うらしい。

筒井さんは一度「それでは、失礼致します」と下がろうとしたけれど池田管理官さんが「いや、待て」とそれを止める。




「筒井には付き添ってもらう。相手は未成年の女子だからな。怖がらせるのも悪いだろう」


「…はい、わかりました」


そう言って筒井さんは池田管理官さんの斜め後ろに立って、私の表情を盗み見た。その表情が「鈴菜ちゃんなら怖がったりしなさそう…」という色に満ちていることぐらい私でもわかる。
かといってそれに傷つくような性格でもないので、筒井さんに促されるまま池田管理官さんの向かいの椅子に腰掛け、へらりと笑って今の今まで弄っていた携帯を伏せて机の上においた。









「はじめまして、私、鷹宮鈴菜です」



へらりといつものように笑った私に、苦笑いの筒井さんと少し目を丸くした池田管理官さん。

どうやら、取り調べ室っていうのも意外と楽しそうだ。


楽天的にそう思いながら、私は池田管理官さんより先に言葉を発した。












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