飼育員系女子

□しあわせすぎてくだらない
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(赤城side)







昔、鈴菜とその妹とたまたま出会ってしまって、そのままなだれ込む様にあいつらの母親とも知り合い、存在だけは兄貴がいるのも知ってる。

鷹宮家は、とうの昔に父親を亡くしいて、女手一人で母親は兄妹3人を面倒見ていたらしい。今では兄貴も立派に働いていて、家計を支えているのだとかなんだとか。


そんな家庭だからか、鈴菜は強く育っている。
人を受け入れる術も、よく知っているし
自分ひとりで立つことをよく意識している、と思う。








鈴菜が中学3年の夏。
俺の元に遊びに、と称して押しかけてきていた時だ。あいつはそう言って何度も俺を尋ねてきた。
純粋に出会った時の恩を感じているんだろうと思う。
まだ、俺のことを『赤城さん』とおちゃらけて呼んでいた。



そこで、あいつは、いつものように笑っていた。





「進路?そりゃあ、お母さんに悪いし、地元の公立高校行くよ?」


あったりまえじゃん!
そう笑うあいつが、どうしても泣いてるように見えてしまって。

少し前に、ちらりと聞かされたあいつの将来の夢はきっと、本心からのものなのだろうと感じていた俺は。













「俺の家から通えば、迷惑なんてかかんないだろ」



そういって、 あいつの鞄から、都内の公立高校の案内を引っこ抜いた。






あいつが、定期的に俺のもとを訪れる時、親には「赤城さんに会ってくる」と言っているらしい。これは妹からの情報だ。
でも、いつも制服なのが俺は気になっていた。おかしいだろ。夏休みまで制服着て、遊びに来るなんて。

鈴菜は、都内の高校見学に来てたんだ。
その事実に、少し前から気付いてた。





「やだなぁ、何言ってんの?それは、友達が……」


「別に、お前一人面倒見るくらい、俺にはどうってことない」


「でも、それじゃあ、赤城さん、に……」


「俺になら、いくらだって迷惑かけてみろ」




どうせ、母親にも兄貴にも、その幸せそうなよく出来上がった笑顔で挨拶してるんだろう。
妹にも、少しおちゃらけた笑顔でものを教えてるんだろう。

鈴菜は、本当によくできたやつだった。
誰よりも家族を思い、誰よりも幸せに対して貪欲で、誰よりも人に理想の自分を見せる術を熟知している。



綺麗に作り上げられた笑顔に違和感なんてなくて、でも鈴菜の言葉の端々には些細な矛盾がいくつも見て取れて。
そんな、姿が、どうしても気になって。

あぁ、俺は。









「しょうがないなぁ!そこまで言うなら私が左門さんの面倒見てあげるよ!」


3年間だけね!といたずらっ子みたいに笑った鈴菜の笑顔に、釣られて頬が緩むのがわかった。
生意気だな、なんて言ってみても鈴菜は「左門さんこそ」と笑みを深めるだけ。
途端に名前呼びになったことを後に聞けば、ルームシェアするのに苗字呼びじゃ味気ないとかなんとか思ったらしいが、でも あの瞬間に俺と鈴菜の距離はぐっと縮まったと思う。







左門さん、と鈴菜に名前を呼ばれる度にやんわりと胸に広がる温かい気持ちとか。

初めて年相応に見えたその笑顔とか。

後日嬉しそうに新しい二人で暮らせそうな物件のチラシを持ってくる姿とか。

前よりも嬉しそうに俺の家を私服でも訪れるようになったとか。



そんな鈴菜に、俺は惹かれていたんだと、あの時になってやっと気付いたんだ。




















俺は、行方知れずになったキャップと鈴菜を思い浮かべながら、携帯電話を手にとった。




「三枝さん。残念です、謎が全て解けました。そちらへ向かいます。場所を教えてください」






俺はまだお前に、何も返せていないだろう。


あぁ、それから。






「鈴菜は、無事なんですよね」







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