飼育員系女子

□柔らかな世界の終わり
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三枝さんから『もし良かったら手伝っていただけませんか?』と連絡が入ったのはほんの数時間前の出来事だ。
特に予定もなくだらだらと過ごす予定だった私は快く二つ返事で了承し、簡単な私服に着替えて必要なものだけを掴み三枝さんのお店Cafe3まで出向いたのだ。



「本当に、閉めちゃうのかぁー」

「えぇ。ずっとやりたかった事に取り掛かれそうなので」

「まぁ、三枝さんの人生ですもんね」


まったりと。穏やかに。私の口から出た言葉。
私はただのお友達程度である三枝さんの人生を左右させることはできない。
でも、少しワガママを言えるのであればCafe3は、左門さんやキャップさんが穏やかにお茶を出来る場所としてずっと残っていて欲しかった。
ここは、左門さんにとって信頼する三枝さんが居るというだけでなく、自宅以外に穏やかになれる場所だと。ある意味で心の拠り所なのだと思っていたからだ。


キャップさんあたりは、大袈裟に肩を落としそうだと三枝さんと小さく笑いながら食器を包んで箱に詰めていく。
すると、ぼちぼち遅い時間になろうという時にカランカラン、と扉が乾いた音を立て入店を知らせる。



「なに、してるんですか」


聞き覚えのある声に三枝さんの後ろからひょっこり顔を出すと「鈴菜まで、」と言葉が付け足される。
私は、先程までと同じように手にしていた食器を包み、箱にしまい入れた。
三枝さんは、そこに立ち尽くす左門さんにいつものように柔らかく答える。



「永遠に続く日常を求めていたんですけどね」


どこか、含みがあるように。
隣に座る三枝さんの表情は影っているようにも見える。
私は、なにもしらないんだと、痛感させられる気がした。
彼が何を言わんとしてるのか、ちっともわからないのは私が無知だからか。



「俺も、さっき同じことを思いました」


左門さんが言い放つ言葉を聞くが早いか、さっと横にあった鞄を引き寄せ、少し高めの椅子からひょいと降りてやる。そのまま左門さんの元へ向かおうとした時に三枝さんは、確かにクスリ、と笑った。
私は彼の言わんとすることを解っているけれど、左門さんは不思議そうに小首をかしげた。
お、新しい仕草だ。三枝さん相手だから訝しげに睨みつけることもできないんだろうか。



「いえね、鈴菜さんが赤城くんはもう時期ここに来るだろうと言っていたものですから」

そう。確かに私は彼がここに来ることを予言した。でもそれは超能力でも何でもない。千里眼も予知夢も一度たりとも私に目覚めたことはない。
でも、解るのだ。ただ、わかる。
連絡を受けたわけでも何でもないけれど、解るものなのだ。
何故だか、逆に私が聞きたいくらいだ。
でも、左門さんと近い位置にいるとは思っている。




「鈴菜さんに赤城くんを任せたのは間違いじゃなかった」


「そうだと、いいんですけどね」




彼の含みに誰も気付かないように。
誰も私の心に気付かない。

本当に、私と彼は支え合うべきなんだろうか。



近くに、居るべきだろうか。









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