飼育員系女子

□となりあわせの星と月
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私の苦手なものをご存知だろうか。

料理とかも好き嫌いはないし、人付き合いだって困ったことなんてないくらいの私が苦手なのは。



『…います。彼らはいます!』

『い、今なにか物音が……』


「…………」

所謂“ホラー”である。

もちろん理由もちゃんとあって、3つ上のお兄ちゃんが、いっつも悪ふざけで私のことをありとあらゆる場面で怖がらせて、それが延々と続いた果てにもう私の中でホラーは恐ろしいだけのものになってしまっている。
見えなければいい?見えないから怖いんじゃないか。
全部ヤラセだって?本物がいないって証明をしてみて欲しい。

テレビで胡散臭そうなホラーがやっていて、今日はそんなのやる予定だったか、と考え込むも全然記憶にヒットしない。勿論、全部の番組を把握してるわけじゃないけどある程度はわかってるつもり。
しかも、それを食い入るように見てるのは、ホラーなんて全然信じないだろう左門さんだ。


「そんなん見ないでくれる?」

「なんだ、怖いのか」

「……見るなら自分の部屋で見て」


ソファの前にあるローテーブルの上には、同じシリーズと思われるホラーが積み重なっていて、それなら左門さんの部屋のパソコンでみてほしい。
左門さんは、そういう私ににやりと笑って立ち上がった。
え、ディスク停止してよ、と思うまもなく彼は部屋の電気を弱くしてしまう。
もうとっくに日は沈んでて、日当たりもそれなりに良いはずのこの部屋ですら薄暗くなる。


「え、ちょ…さ、さも」

「何事も経験だ」


左門さんは、私の腕を引いて自分のとなりに半ば無理矢理座らせるとテレビの音量を少し上げた。
……え、ちょっと。なにこれ。
戸惑いを隠せずに左門さんを見遣るも、もうテレビにまた目を向けている。
いやでも、その口元はあっきらかに、ニヤリと歪んでいる。



「さ、左門さん…部屋で見た方が」

「いや、パソコンより画面はでかい」

「部屋は明るくして見ないと」

「そんなに直ぐに目は悪くならない」

「て、てか、こんなん好きだっけ!?」

「青山に借りた。事件の重要資料だ」



なら、もう本当部屋で一人でじっくりきっちり見てください……
そう言っても彼は「いや、いい」と良く分からない遠慮の言葉を口にするだけで訳が分らない。
部屋に戻ろうにも私の手はがっちり彼に掴まれていて逃げ出すことは許さないと言われているようで。


「〜っ!」



……見終わる頃に、私は生きてるだろうか。







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