飼育員系女子

□ずっと青くてきっとせつない
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彼が私と出会ってから、しばらくは携帯電話でのやりとりがメインだった。どちらかと言えば、私が一方的に懐いたような関係の始まり。
私が相変わらず彼との距離を上手く測りながら仲良くなろうと試みたら、彼の方から歩み寄ってきてくれたような。多分そんな感じだったと思う。

また、私が彼を好きになったのは一緒に住み始める少し前で、母子家庭だった私が進路について悩んでいた時に「俺の家に…」と言ってくれた。あの時、彼がそんなことを自分から言ってくれるとは思わなくて、でも彼のどう仕様もない優しさに埋もれて。多分その時。


「鈴菜」

「あー、今忙しいから後にして」

こうして、私が彼に縋らないのは元々だったりする。彼が私に抱く感情は、優しさをくれる母親に対するもののような、雛鳥がお母さんの後ろをついて離れないような。多分そんな感じの感情。だから、私はこの気持ちが小さく小さく萎んで、いつか消えてなくなってくれる時までは、大人しく隠し続けるって決めているのだ。
ていうか、好きだからってベタベタとか、そういうキャラじゃないだけなんだけど、さ。


「…何見てる」

「ドラマスペシャル」

左門さんは、シャワーから出たあと私に何か言おうとしたけれど、どうせ大したことじゃないと目星をつけてテレビ前を陣取ったままちっとも動かないでいた。視線すら彼へ向けることすらせず、淡々と答える。
私の好きな俳優さんが出てる刑事ドラマの二時間スペシャルが始まったところで。「頼み事ならCMのときね」とあっさり切り捨てようとした時に、彼は私の座るソファの隣に腰掛けてきた。


「どうせこんなの台本で用意されたコテコテのつまらない事件だろ、何がいいんだか…」

「私はそのつまらないコテコテの事件が見たいんですー」

「…悪趣味だな」

「なんとでも。あ!出てきた!ちょっと左門さん静かにして!」

「な、」

ドラマ内ではちょうど、事件勃発。まさに目の前で事件が起こって、それを「これは事故に見せかけた計画殺人です」とお気に入りの俳優さんが決め顔で告げた。画面の中で警察の人達が「なにぃ!?」なんて言うのに不敵に笑って「犯人はこの中にいる!」なんて更に決めてくるものだから「あーかっこいいなぁ…」と心の声が漏れてしまった。最近人気の若手俳優くん。
こないだの恋愛映画での役もかっこよかったし…と考えをふくらませていると、横から鋭い視線が突き刺さる。

「なーに?」

「こいつより、俺の方が難事件を解いている。こんな台本を読むだけの推理より俺の推理の方がよっぽど」

「あーはいはい。そうだね。左門さん凄い凄い」

「おい!ちゃんと聞け!」

横から迫ってくる左門さんの聞きなれた小言を受け流そうとしたら、どうやら彼の気に障ったようで。おい、やら鈴菜、やら机をばんばん叩きながら不満を漏らしてくるので「うるっさい」と嫌そうな顔で叱りつけたらやっと大人しくなる。
私はテレビ画面に夢中だ。画面では例の若手俳優くんが「…この事件、なにか匂う」と言っていて、おぉー。と思ってしまう。そんなクサイ台詞も言いこなすのが彼の売りだったりする。

一瞬だけ、目を丸くして。その後ちょっと考え込んで。最後には、ぷい!と足を組み直して顔を背けてしまう。
あぁもう。面倒くさいんだから。

それでも、しょうがないので。



「左門さん、左門さん。犯人、誰だと思う?」


一緒に刑事ドラマを見るなら…と、ありがちな台詞を投げかけてやるだけで、嬉々として今のはあいつが怪しいだとか、絶対にあの女は何かを隠してるとかぺらぺらとよくまぁ口が回ること。
私は事件の真相を話されても気にしないタイプなので「そうなんだ」とか「なるほど」とか合いの手を入れてやれば満足そうに「この赤城左門に解けない謎なんてない」と言っている。

31歳にしては可愛すぎると思いませんか。




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