飼育員系女子

□おやすみきみはやさしい子
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がやがやと騒がしい教室で、私は机に向かって頭を悩ませていた。
テストも終わり、後は夏休みを待つだけ!ということで、私は気合を入れてアルバイトのシフト作りに気合を入れている。
課題はゆっくり片付けたい…とすると、お盆は休みを……いや、お盆こそ稼ぎ時だな、それなら少しずらして……
なーんて、私の思考回路に入ってきた邪魔物がいた。彼女は空いていた私の前の席に横向きに腰掛けたようで、視界の端にその姿が入り込んだ。


「ね、ね、鈴菜」

「ちょっとハル、邪魔しないでよー」

「いいから見て!これ!」


我が親友である荻野ハルが私の目の前の席に座り、スマートフォンを突きつけてくる。
シフト表の上に携帯を乗せられては、バイトのシフトに向かい合うこともできないので、渋々彼女の見せようとしてる動画に意識を持っていく。
ハルは、校則違反の金髪をさらに校則違反のネイルが彩る指で、なおも校則違反のピアスが刺さってる耳にかけるようにして、その動画を開いた。
何なにー?と横から寄ってきたのは、川嶋桜。彼女も親友。ようは、これが仲良し三人組ってことだ。


「…げ、悪趣味」

「あ、これ知ってる!」

ナニコレ、と顔を歪めた私の隣で桜は知っているようで「なんだっけ、sudenaguri?」と言葉にした。
sudenaguri。…ネーミングセンスは皆無。
名前の通り、素手で一発だけ殴って相手を気絶させるという愉快犯らしい。最初はみんなヤラセかと思って低評価してたけど、実際失敗例もあったりしてリアルな映像だと通報も何回もされているとか何とか。
怖いもの見たさと言うべきか、噂になっているからか再生数はぐんぐん伸びているのだとかなんだとか。


「でも、都内で起こってるなら怖いよね」

そう言ったのは、私の横で突っ立ってる川嶋桜で。私とハルは黙って顔を見合わせる。
怖い?桜が?

「いや、逆に桜がとっ捕まえてきてよ」

「桜の方が怖いって」

「え!?ちょっと!どういう意味!?」

こんなに間抜け面のお馬鹿ちゃん、成績は下の下の下である赤点まみれの川嶋桜は柔道で黒帯を締めている。道場にも通っているし、部活にも所属して、ジムにも通ってるらしい。「そんじょそこらの奴には負けないよ!」と言って力こぶや腹筋を触らせてもらった時にはちょっとだけ憧れた。


けらけらとハルと二人で笑いながら桜をいじったりするのが最早私たちの日常。
いくら何でも冗談だよ、と笑っていると、ハルがまたも思い出したように私たちの前に提案を落とした。



「あ、そうだ!今日新しくできた喫茶店いこうよ!」

「あの特大パフェのとこ?」

「行きたーい!」


帰り何かあったらよろしくね!と桜に言うと「しょうがないなぁー!」なんてニヤニヤしながら自らの力こぶをぱしっ!と叩いてみせた。
頼もしい友人だ。




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