飼育員系女子

□大丈夫、未来はきみにやさしい
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所は本日開店のCafe3。
その扉から乾いた音がして、入店を知らせる。たった1人の客だった赤城左門がそちらを見遣ると、案の定予想通りの人間がリュックサックを背負ってへらへらと立って手を振っている。今時の女子高生といった風貌だ。
カウンター越しにいた、この間まで赤城の上司であった三枝も入店者を見つけて「お待ちしておりました」と丁寧に笑って見せる。
赤城の呼び付けた相手は口元に笑みを携えながらカウンターに座る赤城の隣に腰掛けて、まったりとした口調で挨拶する。



「お久しぶりでーす」

「えぇ、しばらく見ない間に随分大人っぽくなりましたね───鈴菜さん」


鈴菜。
そう呼ばれた少女は、近くの高校の制服に身を包んでおり「そーですか?」なんて照れたように笑ってみせた。
砕けた口調だが、不思議と好感を覚えるのは人懐っこさを感じさせるころころ変わる表情からだろうか。
そんな表情を見て、「どこが大人っぽいんだか」なんて赤城は疑問に思うものの、それよりも聞きたいことがあったのでぐっと抑え別の言葉を口にする。


「晩飯は」

「あ、まだ」

「だと思った」

赤城の言葉と重ねるように三枝がカウンターからナポリタンのプレートを鈴菜の前に置く。
わお、さっすが。なんてふざけた口ぶりで隣の赤城にニヤニヤと笑いかける鈴菜。「冷めないうちに食え」なんて言われてしまったので「いただきます」とあくまでも三枝に声をかけてフォークとスプーンを手にとった。


「赤城くんがこの時間に出来上がるように注文したんですよ」

「流石腐っても警察だね」

「お前のバイトが終わる時間と此処までの距離がわかったら猿でもわかる。因みにお前は好き嫌いがないだろう。それから俺は腐ってない」

「いや、猿には流石にわからないよ」


確かに好き嫌いはないけれども。それは美味しいものを食べれるなら、であって強いて言うなら美味しくないものが嫌いなくらいだ。それでも食べれないってことは無いだろうけど。そんでもって腐ってもっていうのは比喩表現であって別に腐ってるなんて思ってないよ、まぁ引きこもりだとは思ってるけど。
と長々続くはずだった返答を一文に収めて、鈴菜は隣の口うるさい男は置いて三枝に「美味しいですね、主夫みたい」なんてヘラヘラ笑っている。

それに少し面白くないと思いながらも赤城はあぁ、そういえば。と思い出したように口を開いた。
隣の鈴菜は隣人のそんな様子にいち早く気付き彼を見上げる。


「今日から新しい事件だ。何かあれば帰りが遅くなるかもしれないから戸締まりはちゃんとしろ」

「へぇ。変わった事件?」

「まだ毒殺死体が発見されただけだ。相変わらず使えない税金泥棒ばっかりで話にならん」

「そっか。晩御飯いらないときは連絡してね」



頬ずえをついて「あぁ」と簡単に返す赤城左門、それからその隣でナポリタンを頬張る鷹宮鈴菜は同居している。

でも、その間柄は恋人やら何やらピンク色の素敵なものではなく利害の一致で一緒に暮らしているまで。
それも、鈴菜がそう言っているからなのだが。


三枝は、少しだけする予感を胸にそっとしまいながら、何だかんだで気を許しあっているほのぼのとした二人を楽しげに眺めていた。







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