飼育員系女子

□幸福論とにらめっこ
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助手席から降りてきた男は不機嫌そうに顔を歪めてこちらを見るから鈴菜のつぶやき通り、それが赤城左門かと思うけれどなにやらこちらには来ず、もう1人のひょろりとした男ともめているらしい。こちらまで内容は聞こえないが言い合っている風なのはわかるので、私たちはそのまま眺めていると恐らく赤城左門だと思われる方が携帯を取り出した。

……は?
不思議に思う間もなく、隣の鈴菜の携帯が鳴り響き「はいはーい」と呑気に携帯に出る鈴菜。
なに?なにそれ。どうなってんの?と不思議に思う時、ただ思い出したのは前に鈴菜が言っていた言葉。

ぶっちゃけ噂の赤城左門ってどんな人なの?って、聞いた時にすっきりさっぱり即答した。「対人恐怖症の引きこもり」だと。
それに私と桜は結構冗談だと思っていたんだけど。




「(そういうこと……)」


適当に相槌をうち、所々「大丈夫だよ」と返答している鈴菜に暫く気を取られていたら目の前にくしゃくしゃの頭の男の人が立っていた。




「こ、こんばんわ……」

「キャップさんだ。こんばんわ」


「鷹宮さんのお友達だよね、前に病院で……」



あぁ、そういえば菊川サンを鈴菜が助けた時に病院で眠い中待っていたらこのお兄さんが来たような来なかったような。言われてみれば来た気がする。
私はそのお兄さんをまじまじと見ると、さっきまで何にも知らなかった桜もやっとこちらに気づいて、私たちの腰掛けるベンチの背もたれに乗り上げるようにしてもたれかかった。




「前に1回会ってるよね、左門さんの上司のキャップさん」

「はい!私、川島桜でっす!」

「荻野ハルでーす」


「あ、百合根友久です。よろしくお願いします……?」


「百合根、友久さんかぁ!じゃー百合っちか友ちゃんかなー」

「おーいいじゃん百合っち」

「じゃああたしは友ちゃんで!」


「あんまりからかわないの。それでキャップさん、左門さんはなんて?」



私らがけらけらとふざけていると鈴菜が百合っちに問いかける。赤城左門の存在を知らない桜は「何何?伝言預かってんの?」と鈴菜の背中に乗り上げる。ぐぇ、と潰れた声を上げたから鈴菜が死ぬ前に退いてあげてね、と心の中でだけ言いながら立ち上がって鈴菜たちに「そこのコンビニまで行ってくるわ」と言うと鈴菜は笑って、桜は呑気に私を送り出す。桜に至っては適当にトイレかなんかだと思ったんだろう。さっき公園のトイレは汚いからコンビニまで行かなきゃね、と話していたから。

………こういう時、鈴菜には見透かされてそうな気がするから、なぁーんかむず痒いんだよね。
頭がきれるところは嫌いじゃないし好きだけど、一本取られた気分になる。







後ろで「もー、助けてくださいよ鷹宮さん!」と泣き言の中に「赤城さんが、」と話しているところから鈴菜の話に聞くように百合っちは相当赤城左門に振り回されてるみたいだ。

ご愁傷さま、と思いながらも私も少しだけ心構えをした。









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