■転生したらNARUTOの世界だった
□モルセラ
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ふらつく足にぐっと力を入れて、ゆっくりと一歩ずつ前へと足を踏み出す
せわしなく人々が行き交い、どんどんと俺を追い抜いていく
花屋で買った花を手にさげ、俺は賑わう街の中から抜け出した
ひっそりと、身を隠すように佇んでいるのは慰霊碑。
優しい木漏れ日が数多くの英雄たちを包み込んでいるようだ
白い小さな花を咲かせるモルセラを一輪、慰霊碑の前にそっと置いた
ミントのような香りが鼻腔をくすぐる
しゃがみ込んで、冷たい石碑に刻まれた文字をなぞる
しっかりと刻まれた、俺の大切な人の名前
「ミナト先生…」
無意識に口が枯れた声で名を紡ぎ、久方ぶりに使った声帯が痛んだ
つう、と温かな滴が頬を濡らしたが、琥太郎はそれを拭おうとはしなかった
瞼を閉じれば、また一つ涙が頬を滑り落ちていく
「先生はもう、いない…」
わかっていたことだった
覚悟をしていなかったわけではない
でも、実際にそれを体験するのは全く別ものだった
胸が締め付けられるように痛い。痛みには、慣れているはずなのに
息が詰まる。酸素が薄いのではないかと錯覚するほどだ
でも、
泣いている場合ではない
俺は生き残った
先生の分も、前に進むんだ
乱暴に涙を拭って前を向いた琥太郎の目にはもう、迷いも後悔もない
「先生を思って泣くのは今日で終わりだ。
先生とクシナさんの意志は俺が受け継ぐ。ナルトも、俺が守るよ。必ず」