ごちゃ混ぜ短編

□博臣と飼い犬
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「弘樹」


俺を呼ぶ静かな声


黄緑色の瞳を見つめてなんだろうと首を傾げる



「もうすぐ出るぞ。用意はできてるか?」



そうだった、今日は虚ろな影≠ェ街を通過するんだった



だからといって俺は特になにか用意するものがあるわけではないので、博臣が言っているのは心の準備というところだろう


こくりと頷けばそのまま頭を撫でられるのでじっと動かずに享受する




「虚ろな影≠ノ影響されて様々な妖夢が殺気立っているだろう。くれぐれも怪我には気をつけろ」



「(コクリ)」





お前は時々無茶をするからなと博臣が念を押してくる



うん、気を付けはするけど、博臣が怪我しそうになったらきっと俺は飛び出してしまう










外に出て見晴らしの良い丘に登る



ざわざわと空気が落ち着きなく流れ、どこからか遠吠えのようなものも聞こえる






「……あれか」




山の向こうから黒い靄(もや)のようなものがじわりと湧いてくるように流れてくる




新堂写真館のある場所が光り、そこを中心に結界が展開された




それに合わせるように博臣も檻を張り、その数秒後に虚ろな影≠轤オきものが檻に当たる




「ッ、…弘樹!」



しまった、囲まれたか



振り返ったそこには狼のような姿をした妖夢の大群




狼は群れを作るけど、狼似の妖夢も群れるのかな



姿に引きずられるっていうか、同じような習性を持ったりしてるのかも



どうでもいいことを考えながら得物を構える




俺の武器は刀。
栗山さんのより少し短いのが二本。



両刀使いの俺は大群の妖夢を斬って斬って斬りまくる



もちろん俺の仕事は妖夢を倒すことじゃなくて博臣の身を守ることだから、決して博臣から離れすぎない



深追いはせず、こちらに牙をむいて襲ってくるものだけを返り討ちにしていく




それにしても数が多い。



さっきから何匹倒したのかわからないけど、その辺に転がってる妖夢石の数的には相当倒したはずなのに


一向に数が減ったように見えない妖夢にため息をついて博臣を振り返る




「ッ…!」



博臣の足元からにょろりと伸びる触角のようななにか



まずい、地中にまで妖夢がいたなんて



「博臣ッ!!」



俺の声に目を見開いた博臣




タックルするように抱き着いて、博臣を庇う



俺たちがさっきまでいたところに突き刺さる触角のようなもの




避けきれなかったのか肩から背中にかけてがひどく熱い




「っ、ひ、弘樹ッ?」



「…痛いとこない?」




とりあえず目視できるとこから出血はしてなさそう。

ぺたぺたと博臣の体を触ってみても痛そうなところは無し。ん、よかった




「馬鹿、お前が傷を…ッ!」




「まずは妖夢を倒さなきゃ」





涙目の博臣に背を向けて妖夢に向き合う





「ッそんな傷で何を言ってるんだ‼俺に任せて後は…」




「博臣 俺は大丈夫だよ」



博臣の仕事は檻を張って虚ろな影≠フ進行方向を決めること



俺の仕事は博臣の護衛




ね、と笑ったら博臣は口を閉ざした



まだ泣かないでね?俺、ちゃんと頑張るから





すべての妖夢を倒し終わり、辺りには俺の血と数え切れないほどの妖夢石でいっぱいになっていた





はっはっ


犬のように息が乱れる



流石に余裕がない



これ以上の失血はまずいと地に膝を付きしばし呼吸を整える





「弘樹っ……大丈夫か?」




駆け寄ってきた博臣にこくりと頷けば安心したのかその顔がくしゃりと泣きそうに歪んで


あ、まずい




「また、無茶をして……」



俺の、せいだなと言った博臣の瞳からぽろりと涙がこぼれて



違うのに



俺が弱いせいでもう少しで博臣に怪我をさせるところだった


こんなの自業自得なのに




「…泣かないで」




俺の横に膝をついて座る博臣を抱き寄せる




ずきりと傷んだ背中


もしあと少しでも気づくのが遅れたら博臣はもうこの世にいなかったかもしれない



そう考えるとぞっとした



それに比べればこんな傷くらいなんともない




俺は博臣を守るためにいるだけなんだから





「博臣が怪我しなくてよかった」





「っ馬鹿………」









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