過去拍手文

□レッドアイとご令嬢の一夜
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行為の後、レッドアイは私の首にキスマークを残して去っていった。

私は大きな財閥の令嬢だ。
親が憎く思われているのは承知の上。だから今まで私を殺そうとして失敗におわった暗殺者たちを見ても驚かなかった。むしろ残念に思った。理想の高い親に課された習い事づくめの窮屈な日々から解放されると思ったのに。
そろそろ手首にナイフを突き立てようかと考え始めていた矢先だった。
レッドアイが私の部屋に侵入したのは。

晩御飯の後部屋に戻ると、窓が開いていた。
…閉めたはずなのだけれど、なぜ?
疑問に思っているうちに後ろから口を塞がれる。
あ、なるほどまた暗殺者か。
相手は私に抵抗する気がないと勘づいたようで、手を私から離した。
つまらない日々から私を助け出してくれるであろう人間の顔を拝んでやろうと後ろを振り向く。

「…殺さないの?」

ゴーグルの男に問うた。
男の手には銃が握られているものの銃口はこちらを向いていない。

「殺してほしいのか?」
「ええ、こんなにおもしろくない日常は飽き飽きよ。ここから連れ出してくれるひとなんて誰もいないの。さっさと殺して」

淡々と言葉を発する私を見やり、にやりと口角をあげる男。

「…あんた、面白いな」
「私、そう言う貴方の方が面白い気がするけれど…そもそも貴方は狙撃手ではなくて?標的を遠くから撃ち殺すのでしょう、なぜわざわざここに来たの」
「知りたいのか?」
「まぁ、少しは」

すると男は私を荒々しく担ぎ上げるとベッドへと投げた。
目を白黒させて仰向けになっている私に馬乗りになり、ゴーグルと帽子をはずす。
獣のようなその瞳にぞくりと背中が粟立つ。

「…素敵ね」
「いいのか?」
「ここまで来てそれ聞くのね…いいの、構わないわ」
「…そうか」

ふっと目もとを緩める男。

「…ひどくしてくれるかしら」
「その言葉、忘れるなよ」
「ええ」

男の首に腕を絡める。
男の温もりが、鼓動が、存在が、感じられる。
ああ、そうよ、これを求めていたの。
習い事ばかりを与えて会いに来てくれない親なんていらないの。形だけの愛情なんて、いらないの。
こんな退屈な日々なんて、いらないのよ。
男を求めているうちに意識は途切れた。









「…結局、私にわざわざ会いに来た理由はなんだったの?」

まだ日も昇らない早朝。
隣に寝ている男に問うた言葉は、部屋に消えた。
まぁ、寝てるものね。仕方ないわ。
寝息をたてる男の綺麗な顔にキスをひとつ落とし、服を着ようと身を起こそうとベッドから起き上がった。
突然後ろから腕をつかまれ、ベッドにすとんと腰かけてしまった。

「…起きてたのね」
「あんな可愛いことされて起きないわけにはいかないな」
「悪趣味だわ」
「そんな悪趣味な男と寝たのは誰だよ」
「…」

じろりと睨むと男は肩をすくめる。

「…見た目が好みだったから」
「は?」
「理由だよ、俺があんたにわざわざ会いに来た理由」
「…随分とまぁ幼稚な理由ね」
「否定はしない…あとはあれだな」
「まだあるの?」
「あんたと喋って、あんたに惹かれたから」
「…面白い冗談ね」
「好きでもない女と寝たりしない」
「…そう、有難く受け取っておくわ、返事はNOだけどね」

男は私の首筋に顔を寄せ、キスをする。

「くすぐったいわ」
「我慢しろ」

微かな痛みがし、男が離れていく。
少しさみしいような、複雑な気持ちだ。

「…なにをしたの」
「ん…まぁマーキングみたいな」
「…そ、勝手にしなさいよ」

男は服を着て銃を持つと、窓に足をかける。

「…帰っちゃうの?」
「そろそろ出ていく、これ以上いると捕まるからな」
「…そうね」
「…レッドアイ、あんたを殺しに来た暗殺者だ」

そう言って男は出ていった。
開いた窓から入った肌寒い風が頬をかすめる。
鏡を手に取り首をうつす。ぽつりとひとつ、蚊に刺されたような赤い斑点。
…あいつ本当につけていったのね。バレたらどうするのよ、信じらんないわ。
心とは裏腹に頬は緩む。

ねえ救世主さん。
次はいつ来てくれるの?このキスマークが消えたとき?それとももう会えない?
ねえレッドアイ。
私を連れ去って、心と共に私を奪い去ってしまってよ。

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