原作10巻 ルセット デルニエールより。私が勝手に妄想膨らませた作品です。
今更ですが、ネタバレしてほしくない方はお戻りください。
OKな方は下へどうぞ。




























樫いち告白シーンです。
樫野告白からキスまでの間に勝手に話が付け足されております。
原作そのままがいいとおっしゃる方には向きません。
それでもよろしい方はどうぞ!











「バースデーケーキも、ウェディングケーキも、大好きな奴のケーキはオレが作る」
調理室に2人きり。そんな中、いつもぶっきらぼうな彼が私に言ったその言葉を聞いて、私は人生で一番と言ってもいい程、驚きを隠せなかった。
信じられなかったのだ。樫野が私のことを好きだということが。
多分誰だってそうなると思う。私はこの前自分の気持ちに気付いたばかりだ。そんな中、その好意を寄せる相手が自分に対して好きだと言ってくれた。一体どれだけ少ない確率だろう。
「天野…へ、返事…とか…何か…ねーのかよ…」
無反応とか恥ずいんすけど。と、照れて紅く火照った顔を、その大きな手で覆い隠す樫野。いつもドエスで余裕な樫野が、こんなにも弱いところを曝け出すなんて、それもまた信じられなくて。
「…あ、あの…」
言葉がまともに出てこない。
「私…私、ね。わ、私、その…」
言葉が詰まる。すごく篭っていて、心地悪い。
顔が火照るのが分かる。自然と下を向いてしまう。樫野の顔を、まともに見られない…。
バニラのおかげで自分の気持ちにちゃんと気づけた。それなのに、いざ本人に伝えようとすると、上手く話せない。口が動かない。
樫野は黙って私の返事を待つ。その表情は変わらずクールだけど、いつよりも強張っていた。
目線が、彼の真剣な瞳と合う。
「…深呼吸」
「へ」
「深呼吸すれば、落ち着く」
「そ、そうだよね!うん、スー…ハー…」
自分だって余裕ないだろうに、樫野は私を心配してくれる。いつだってそうだった。最初はとんだ冷たい男だと思っていたし、怖かったりもした。けど、今ではよく知ってる。樫野はちゃんと人のこと考えてくれていて、とっても優しくて、温かくて…そして、私は、そんな樫野が…
「好き。大好き。樫野が、大好き…!」
この世で一番、好きなのだ。
樫野はそのクールフェイスが崩れるほど安堵しきった顔で、深くため息を吐いた。
「よ、かった…マジでよかった…お前ややこしすぎ。ダメかと思っただろうが」
「ごめんごめん。けど私にだって心の準備ってものがあるの!すっごいびっくりしたんだから」
「メンタル弱すぎるんだよ」
「何よー、樫野だって顔真っ赤だよ!本当は余裕ないくせに無理しちゃってぇ」
「なっ!何だとこのケーキ豚!」
「ひっどーい!このドエス男!チョコだけ男〜!」
さっきのムードはどこへやら。ものの1分も経たずに、赤面の理由が真反対になってしまっていた。
「…ったく、学園最後の夜だってのに、何やってんだよオレたち」
「…そっか、もう最後なんだね」
この短時間で色々なことが起こりすぎて忘れていたけれど、そうだ。この夜が明けると、私たちはここを旅立つ。今までそこに行くことを望んで、必死に頑張ってきた。それがもうすぐ叶うのだ。嬉しくないはずがない。
けれど、心の隅で、寂しいといったマイナスな感情が居座ってしまう。学校のお友達、先輩達、先生方…他にもたくさんの人たちと、もうしばらく会えないのだ。楽しかった時も辛かった時も全部全部、自然と思い出される。
ふと見ると、樫野が何か考えている顔をしている。
「樫野?どしたの?」
「…なぁ天野。最後だし…何かしないか?」
「何かって?ケーキ作っちゃったし、他にすることって…」
「恋人らしいことしたい。…って言ったら、困るか?」
調理室に、換気扇の音だけが響く。
「か、樫野、あんた意外と大胆なコト言うのね」
「う、うるせー!いいじゃねーか!せっかくのチャンスだぞ⁉こっちだって結構我慢してんだよっ!」
「我慢?」
「ハッ…あ、いや、何でもねーよ。気にすんな」
何言ってんだ…と額を手で抑え、俯く樫野。
「そ、それで…何をするの?」
恋人らしいこと、といって思いつくことが、色々と頭を駆け巡る。あんなことやこんなこと、どれも自分達で置き換えると恥ずかしいことこの上ない。
「な、何しようか」
「何よ、樫野から言ってきたのに考えてないの?」
「いや…考えてはいたけど、いざやるとなると…」
「考えてたの?何何?」
私が聞くと、樫野は困ったような顔をしたあと、観念したのか、そっぽを向いて、控えめに言った。
「な、何しても怒んなよ?」
「へ?何、ちょっと怖いんだけど」
「うぐっ…やろうと思ってた矢先に怖いとか言うなよなこのアホが‼」
あああ、マジありえねー。と肩を落とす樫野。
「だ、だって、何されるか分からないとか怖いじゃない!樫野ドエスだし、たまにデビルだし」
「誰がデビルだ!こっちは恋人らしいことしたいって素直に白状したんだぞ!大人しく言うこと聞け!」
「ほーらやっぱりデビルじゃない!横暴王子様!」
「んだとぉ!?」
照れが入ったことでケンカに拍車がかかる。
その矢先だった。
「誰かいるの?」
入り口の方から女子生徒の声がした。
「わっ…!隠れろ天野!」
咄嗟に調理台の陰に隠れる2人。
別に隠れる必要なんてない。この学園では時間を問わず自主練習が許されているのだから。
だが、2人きりであれやこれやしようとしていたところに第三者が現れて、思わず隠れてしまったのだ。
「…変ね、声が聞こえたはずだけど」
現れたのは、生徒会の見回り中の天王寺会長だった。
「電気も点けっぱなし、器具も使いっぱなし…誰かしら、こんなこと…あら?」
会長の目に留まったのは、可愛らしいケーキだった。
「まぁ…これは」
うっとりした目でケーキを見る会長。ウェディングケーキらしさが伝わったのか、興味のある様子だった。
「素敵…けれど上の段と下の段、雰囲気は似ているけれど少し違う…合作?」
当人たちは物陰で密かにギクッとする。
「このチョコ…と、このデザインは…ふふ、なるほどね」
全てを悟った会長は、めったにしないイタズラな瞳をして、策を講じた。
「こんな素敵なケーキが作れる2人に免じて、見回りの順番を最後にするわ。あと…1時間後といったところね」
そう、妙に説明的な言葉を残して、会長は満足したようにさっさと去っていった。
足音も遠のき、静かになった調理室。
「…行ったか」
「かっ…かし…」
「ん?あっ」
隠れるのに夢中だった樫野は、自分が今どのような状態か考えていなかった。
「か、かし、の…」
片腕で、いちごのことを強く抱きしめていたのだ。
心臓の音がお互いに聞こえるほどの距離だった。
「わっ!悪いっ!俺そんなつもりじゃ…」
慌てて腕を離す。と、
「あ、ま、待って!」
樫野の身体をいきおいよく引っ張る。
離したばかりの身体がまたくっついた。
「天野…!?」
「あ、その…こ、恋人らしいって…こういうこと、かなぁ!なーんて…」
衝動的に動いてしまった。
隠れるのに必死でハラハラする場面なのに、何故か樫野の腕の中は安心できて、そのまま夢の中へ堕ちてしまいそうで。
いや、もう既に夢に堕ちていた。ふわふわとした心地が、身体中を駆け巡る。
だから、離れる時にとっさに掴んでしまったのだ。
夢を、終わらせないで欲しかったから。
「あま、の…」
ギュッと腕にしがみ続ける。
樫野の顔を見ることができない。
恥ずかしい…こんなことして…!
すると、樫野の身体が動く。
真っ暗だった視界が明るくなる。
離される…!?
突然抱きつかれたらそりゃ誰だって驚く。恋人らしいことしたい、なんて樫野は言ってたけど、突然すぎて迷惑だったかもしれない。
離さないで!と名残惜しそうな目をしたその時だった。
背中に手が回った。
そして、腕よりももっと広い、彼の胸に、頭を押し付けられた。
「こっちの方が、恋人らしいかと思って」
声、身体、動作…それで彼がガチガチに緊張していることは、いくら恋愛ごとに疎いような私でも容易に分かった。
今のもきっと、咄嗟に吐いた言い訳だ。適当な理由をつけないと、きっと何もすることができないくらい、迷っている。
そう、彼も私と同じで、試行錯誤している。
いつもはクールで何を考えているのか分からないことが多いのに、何故だか、今日は樫野の気持ちが手に取るように分かる。
それは、身体が密着しているせい?
「天野…」
声が熱を帯びる。
いつもより低い声。真剣な声。
なんだか、樫野の身体がどんどん熱くなっているように感じられる。
「かし、の」
心地よさが身体中を漂う中、つられて私も彼の名を呼ぶ。
「いち、じかん…あるんだよな?」
「…へ?」
唐突に時間を気にしだす樫野。
一瞬、私は何のことを言っているのか分からなかったが、それが先ほど聞いたフレーズだと思い出し、理解した。
「見回り…」
「そ、そーだね」
「今、11時だから…日付が変わるギリギリまで、誰も来ない」
「で、でも誰か練習しに来ちゃうかも」
「その時やめればいい」
「なっ…」
「スリルがあっていいだろ?」
「うっ…やっぱりドエスデビルだ」
「じゃ、その肩書き、有効活用させてもらおうか」
「へ?」
その瞬間、身体を密着させたまま、私の身体は上へ引っ張られた。
その力強さに驚く。普段王子3人が並ぶと1番小さい彼。けれど、私よりもずっと力が強くて、それは男の子の証で。
これからすることも、きっと男女のそういうアレなんだと身構える。
「いきなり床に押し倒しながらはマズイからな」
「何言って…」
「まぁ行く行くはそうなるけど」
「かし」
樫野は相当余裕がないようだった。
暴走というのが相応しいような彼の様子に、私は驚いた。
けれど、怖くなかった。
私もこの甘い空気に毒されて、正常な判断ができなくなっていたのかもしれない。
「あま…いち、ご」
突然の名前呼び。身体にピリリと衝撃が走った。
もっと深くまで毒されてしまった。
「ま、こと…?」
初めての名前呼びに不安になる。
すると彼は、満足そうに表情を緩めた。
顔が近い。吸い込まれそうになる。
いっそ、吸い込まれてしまえ…!


次の瞬間、心が通じあったように、お互いが唇を合わせあった。


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