小説

□彼の赤色
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火竜リオレウス

その赤き空の王者の気高さに魅せられるハンターは少なくない。
そしてアッシュもその一人だった。
彼らはその火竜の鎧に身を包まれ、さながら小さなリオレウスの様だ。



狩り場でもその赤は命の灯火の様に、燃えるように舞う。





爛々と太陽が輝く日だった。
雪山から降りると、今が夏だということが嫌という程思い知らされる。
隣を見ると、信綱が額から汗を滴らせてげんなりしていた。東洋人である彼の黒い髪は熱を余計に集めてしまうらしい。信綱の頭を触ると驚くほど熱を帯びていた。
対するジャックは、その長い髪こそ鬱陶しそうだが、銀色のそれは見ていて暑さを感じさせない。信綱と違いあまり熱くもなっていないようだ。
スカイはミズハ装備の帽子のツバが広く、そこまで太陽の射熱によるダメージはないようだ。

そして、赤い鎧に身を包んだ一番見た目暑苦しいアッシュだけが、汗一つなく涼しげに歩いている。

「暑くないのか?」

ジャックが見かねて聞いた。赤いアッシュは見ているだけで汗が流れてきそう。

「火属性なめんな」
「やっぱ熱に強いんですかねー」

火竜の装備は身につける者を炎から守る。それと同じ原理で太陽の熱も通さないのだろうか。
赤い髪はさらさらと歩く度に揺れる。

「スカイそれ寄越せ」

信綱が頭をじりじりと焼かれる事に耐えきれなくなったのか、スカイのミズハ帽をとりあげた。

「信綱さん〜僕が暑いですって」
「俺の頭を触ってまだ同じ事がいえるか?」
「触りたくないので言えますよ」

わざわざこの夏の時期に熱いものに触れるのは勘弁だとスカイは肩をすくめる。
信綱の焼けるように熱された黒髪は、いつか本当に燃えてしまいそうだと思った。

「仕方ないなぁ、この村の集会所に着くまでですよ」
「助かる」
「あ、ずるいぞ信綱」

やいのやいのジャックと信綱が帽子を取り合いながら歩みは集会所へ。











集会所へ辿り着いて、目についたのは火竜装備のハンターの数々だ。
十数人のハンターが集会所には居たが、半数近くリオレウスまたはリオレイアの装備に身を包んでいる。

「夏の風物詩となりつつありますね〜」

受付嬢もそんな事を言っていた。
まあわざわざ夏に合わせてそんなものを作るハンターが多い訳ではない。
上位以上のハンターはちゃんと狩に合わせた装備をしなければ危険であるし、この季節に増える火竜装備は下位のクエストに向かうハンターか、火竜の装備の愛好家だろう。火竜装備の、というより火竜そのものに、の方が正しいだろうか。

クエストボードを見に行ったアッシュを、三人はすっかり火竜装備の数人の中に見失う。
一様に赤い鎧。
集会所に入り身なりを整えた彼ら。アッシュも頭装備までしっかり被り、特徴的な赤い髪も確認出来ない。

「どれだ?」
「右から二番目じゃないですか?」

後ろでそんな会話をする信綱らを尻目に、アッシュはクエストを探す。
夏だし夏らしいクエストを受けたいと雪山から降りて来たのだ。ダイミョウザザミの二頭でどうだろう。エリアに広がる砂浜と海を思い浮かべ、アッシュはそのクエストに手を伸ばす。

「あ」
「…どうも」

紙の上で赤い手が重なった。リオレウス装備の男と目が合う。
彼もG級なのだろう。アッシュと全く同じ火竜装備一式に身を包んでいた。そのため同じ格好の男が二人、並んでいる。
二人は無言で暫くお互いを見あった。
その赤い鎧を。
お互いの歴史を。




火竜装備の赤は一様ではない。
同じ装備でも、火竜だけは身につけるハンターの数だけ違う赤色を見せるという。
アッシュも初めは火竜の赤色だった。
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