▼遠野の月

□三話
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遠野に来てから早二週間。
あっと言う間だった。


『よ、床の雑巾がけおつかれさん』

「おう、李啓!」

「良いよなー李啓は。
 当番が何一つなくて」

『ばっかやろー
 お前らが言いだしたんだろ?』


そう、あの久々に皆にあった時に
李啓の仕事を何にするかを皆で話し合っていたのだ。

そこである妖怪が提案した。


「考えるのが面倒くさいから
 勝ったやつの仕事をやらせる」


という話。

とりあえず仕事に不満を持つ者全員が李啓に勝負を挑んだのだが
一瞬にして皆敗れた。

そして李啓は仕事なし、と。


「でもイタク良いとこまでいってたよな〜」

「ああ。」

『でもアイツ別に仕事に不満があるわけじゃないみたいだぜ?』

「え?」

「なんでわかんだよ」

『俺の長年の勘、かな』


そう言って笑うとほかの妖怪二人が笑う。


「なんだよそれー!」

「頼りない勘だぜ!!」

『うわ、ひでーな
 じゃ、仕事頑張れよ』

「おう!」

「さんきゅーなー!」


李啓は歩き出す。

先ほどの言葉に間違いはない。
なんと言おうとアレは勘だ。

ただ戦ってる時に分かった。


―あの瞳は…俺をただ"見る"ためだけの意味を持っていた


そうはわかるが、謎しかない。

確かに自分は謎の多い妖怪だと思う。

現にまだ遠野に来て二週間しか経ってないし、
イタクたちにとっては難しく頭の固い大人妖怪共にわざわざ呼ばれて笑いながら話をしてる輩だし。

だが、イタクに嫌われていることはわかっていた。
嫌われているよりも…警戒されている、が正しいだろう。


『男の子も難しいぜ…』

【李啓も男の子だよ?】

『うっせーよ晃夜』


すたすたと歩きながら妖刀に話しかける。
ケタケタと笑う晃夜に視線をずらす。


【どうせあの赤バンダナの少年のことでしょー?
 エムシに似てる】

『いや、似てねえ
 エムシの方がごつくてむさい』

【同感っ!】


けらけらとよく笑う刀だと思う。
この刀はどうやら自分で声を周りに意識させることもでき、隠すことも可能らしい。
現に今は隠しているようだ。


【で、どうなの?】

『何が』

【白狐の収穫は】


その言葉を聞くと同時に李啓の歩みは止まった。
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