◇◆◇another story◇◆◇
□sideA
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本編6P、主人公が秋斉さんの部屋を出た後の秋斉さん目線です
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「──驚いただろう?」
慶喜が連れて来た二人の女子を花里に任せて、二人きりになった部屋の中。
ほんの少しの沈黙を破ったのは慶喜の言葉だった。
「ほんに、あんさんは勝手が過ぎる…」
「仕方がないじゃないか。だって、吉野との約束だから、ね?」
先の吉野太夫がこの世を去る間際、慶喜と俺に向けられた言葉がある。
(確かにあの時、俺も同じ事を聞いたが…)
「約束や言えるんやろか。わてらは返事出来んかった…」
「俺はしたよ。吉野に聞こえていたかは、わからないけれど…」
吉野太夫がこの世を去って五ヶ月。
今日来た二人の様にいきなり現れ、そして、呆気なく去って行ったのだ。
「…二人とも似ているけれど、美桜のほうが似ているよね? 少し若くした感じでさ」
「…確かに。茉莉花はんは更に幼顔やね」
「お前なら、どちらを選ぶ?やっぱり、よく似ている美桜?」
「……は…?」
突然の言葉に、間抜けな顔でもしてしまったのだろうか。
間髪入れずに慶喜が吹き出した。
「冗談だよ。お前の中にはまだ、吉野がいるんだろう?」
「…さっきから何の話どすか?」
「まさか、本気で気付いていないの?」
慶喜は「本当にお前は…」と、苦笑で言葉を濁す。
「兎に角、あの娘達の事は頼んだよ? …お前にしか頼めない事だから」
じゃあね、といつもの様に手をひらひらとさせ、帰って行く背中を見送りながら、頭はあの娘達の事で溢れていた。
(あの娘達も、吉野と同じ様に去って行くのだろうか…)
自分で気付く事はなかったが、あの娘達の正体より、その事のほうが気になっていた…