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□予防線なんて破壊してしまった
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※「予防線なんて破壊してしまえ」の続編。



高校1年生はこどもだよ。
でも、付き合うのはありかもしれない。


東春秋は盛大に笑った。
この前と言っていること正反対じゃないかと腹を抱えて笑った。
そのことに気を悪くするのはソロのA級として目覚ましい活躍を遂げる同級生。
可愛い顔をして太刀川慶と肩を並べる程の戦闘センスに恵まれた女。
そんな女が年下から告白され続けて、漸く折れたと聞いたときは「よかったな」とまるで自分のことのように喜んだものだ。
そんな日からもう1週間は経とうとしている。
本部ではすっかりA級カップルなんてあだ名が定着していてからかう人間の数が日に日に増えていくことに彼女は少しだけ不満だそうだ。
みんな祝福しているのだからそれくらい我慢しろというが彼女はどうも恥ずかしいらしい。
佐鳥と付き合った時点で察するべきだったと思うが、今の彼女に何を言っても無駄だ。
東はよく冷えたコーヒーを口にしながら、彼女の話す続きを聞いた。

「賢ってば事あるごとに合同で任務したいって我儘言うようになって困ってるの。ほら、私って夜間中心じゃない。高校生の賢とはどうしてもズレるというか」
「けど、お前はあいつの我儘に弱いと」
「そうなの!」

机を強くたたくナマエは「かわいい顔で強請られたらなんでもしたくなる...」そう言って顔を青くした。
聞いていて悪いが、とても面白い内容だ。
つい最近までどうやって佐鳥を遠ざけようか悩んでいた女とはたして同一人物なのか。
この際そんなことはどうでもいいが、確かに今回の佐鳥のお願いを聞くことは難しいだろう。
夜間の任務は基本的にナマエ中心で回している。
彼女のサイドエフェクトが「眠らなくてもよい」というものであるのと、隊員のほとんどがまだこどもばかりであるから必然的に夜間、とくに夜中は彼女の任務時間になっている。
それに比べてまだ高校生の佐鳥は昼間や夕方が多い。
無理に夜中に付き合わせることはできるが、それでは彼の学校生活に支障が出る。
いくら1回だけの参加だとしてもだ。
どうしたらよいのだろうと延々と悩みそうな彼女に東はあきらめろと一言伝えてやろうと思った矢先だった。
彼女が突然立ち上がり、名案とばかりにポンと手を叩く。

「私が時々昼間も入ればいいのか」
「おいおい」

恋は盲目とは上手いこと言うなと東は一瞬考えたが、今はそんなことを呑気に考えている時ではない。
ただでさえ負担の大きい彼女がこれ以上任務を増やしてみろいつか必ずツケが回ってくる。
いくら体力があったって、疲れは人知れず蓄積されていくものだ。
東はそれをよく理解している。
彼女の負担を減らすために以前夜間の任務に週2で入ったことがあったがあまりにも辛くて辞めた。
そんな経験がある。
週のほとんどを夜間任務に費やしている彼女に今言えることは、「彼氏の我儘に答えすぎるな」ということだ。
コーヒーを飲みつつ、そういって真剣にさとす東にナマエは恥ずかしそうに微笑む。
見たこともないような顔で。

「でも、賢と一緒がいいのは、わたしも、いっしょ。だから」

これは想像以上のバカップルが誕生したのかもしれない。
東はすこしだけ乾いた笑いをこぼすと、どこからともなく現れて、ナマエに抱き着く佐鳥に「程ほどにな」とただそれだけ伝えると音もなくその場を去った。
後に残った二人は顔を見合わせてからどちらからともなく手を握って「会いたかった」とこぼした。










(熱いなんてものじゃない、あれは。流石の俺も手におえない)
(まあ、耐えてくれ東。お前のおかげで俺たちは助かってる)
(二人ともなんで俺に惚気るのか...)
2016.05.08

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