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□赤色の肌
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地上の街を歩くのには、わたしに勇気なんて必要ない。
けど、魚人島へいっぽ踏み出すにはなけなしの勇気をかき集める必要がある。
地上を歩くわたしと海を泳ぐわたし。
どちらもわたしだけど、海を泳ぐわたしの方が尊い。
視界はタイガーさんでいっぱいにしなければいけない。
そうしなければ生きてなんていけない。
わたしの世界はそうできている。
元から、ずっと、きっと子宮からでてきてはじめて息を吸った時から。
基礎代謝の一部だったんだ。
「今日はよく喋るな」
ふわふわ浮かぶ雲を一緒に眺めているタイガーさんは、膝の上に座るわたしの頬に触れながらなんとなくだろうけど口にしていた。
わたしからすれば、いつも通りなのに。
「きっと、あなたとお喋りしたいんです。いまのわたしは特に」
黙り込んでしまったタイガーさんの厚い胸板をつつく。
いつも通りに無言で指が叩き落とされた。
加減されてるとはいえ、痛い。
タイガーさんとお揃いになった手を撫でる。
すっかり赤くなった。
もう少し、優しくしてくれてもいいのに。
わたしにだけ厳しいから困る。
時々でいいから甘やかしてほしいという我儘をぶつけてみる。
「つけあがるだろう」
「あ、あがりませんよ」
本当は絶対嬉しくて、浮かれますだなんて言えない。
言えない。
でも、そんなことだいすきなタイガーさんにはバレバレで。
呆れた顔をわたしに見せてから、
「黙ってろ」
と至近距離で言われて、
それから抗議の言葉はどうやらタイガーさんの胃の中に全部はいっていったようだった。
どうしよう、多分全身お揃いだ。
「・・・ごちそうさん」
その一言は余計です。
2015.03.11